ソフトバンクグループは5月9日、2018年3月期決算説明会を開催。同社代表取締役会長兼社長の孫正義氏はその中で、4月30日に発表されたスプリントとTモバイルの合併について「売り抜けや逃げではなく、より大きな結果を出すための戦略的な意思決定である」と語ります。その真意はどこにあるのでしょうか。

  • ソフトバンク

    ソフトバンクグループ 社代表取締役会長兼社長 孫正義氏

「ソフトバンクは創業して35年前後経つが、その中でモバイルを中心とした通信事業はほんの10年ちょっと。長い歴史の中で一時的にその意味合いが強くなったということに過ぎず、もともと創業間もない頃から私が色々なところで語ってきたように、ソフトバンク本来の姿にむしろ回帰している」(孫氏)

その上で孫氏は今回、注目されていたスプリントとTモバイルの合併についての説明に時間を割きました。

小さな妥協で大きな成果を、米スプリントの合併

ソフトバンクが米通信大手スプリントを買収したのは2013年。当初、米携帯電話業界第3位のスプリントと第4位のTモバイルを同時に買収することで、上位2社に迫る勢力を作り出す目論見でしたがアメリカ政府の認可が下りず、赤字続きのスプリントだけを手にする形となります。「スプリントを買わなければよかった」と口にしたことすらある孫氏ですが、数年で業績を急激に回復させました。また、2017年になって再びスプリントとTモバイルの合併交渉が行われたものの、破談となった経緯があります。

  • ソフトバンク

    スプリントは営業利益が3000億円近くに達した。これはスプリント創業以来119年の歴史の中で最高益

そして2018年に再度交渉が行われ、合意に至りました。2017年の時点で孫氏や同社役員会は、「ソフトバンクグループが経営を主導する、あるいはイコールパートナーとなる」ことにこだわっていましたが、孫氏はその点を「妥協した」のだといいます。

その理由について、「合併により得られるシナジーや戦いのポジションは大きい。より大きな成果のためには、恥やプライド、こだわりを飲み込み、小さな妥協は受け入れていい」と語りました。

  • ソフトバンク

    合併後の新会社がいかに米国で存在感を示すか、5G転換での競争力に期待がかかる

合併による具体的な利点として、スプリントが保有する2.5GHz帯とTモバイルの持つローバンド・ミリ波を足すことで、全米で強い5Gネットワークを作れること、設備投資に対する経営効率向上も含めると、シナジー効果は5兆円弱と見込まれること、そしてなにより、低価格と高付加価値を提供し、価格とネットワークの大競争を仕掛けることで米ユーザーのためになることが挙げられるとし、両者の合併は「大いに意味がある」と強調しました。

楽天は「ライバルとして迎え撃つ」

質疑応答で楽天のMNO参入についての質問を、孫氏は「楽天が新たな角度から競争を仕掛けてくるというのは、色々な意味で刺激があってよろしい」と余裕のあるコメントでかわします。

「三木谷さんは大変優れた事業家だと高く評価している。一事業家として健闘をお祈りする。ソフトバンク側も、宮内社長を中心にライバルとして迎え撃つ考えだ」(孫氏)

ソフトバンクも以前は楽天と同様、価格競争を仕掛けてMNO市場に参入した側。記者から「ソフトバンクがMNOに参入することで、携帯料金は安くなったと思うか」という質問がとびます。それについて、孫氏は「安くなった」と断言。「アメリカの通信会社を経営する側からすると、日本の通信料金は、アメリカの通信料金と比べてずいぶん安い。アメリカでは、日本よりはるかに劣るネットワークを、日本よりはるかに高い値段で提供している事実がある」と熱弁しました。

また、漫画や雑誌、アニメなどのコンテンツを違法にアップロードしている「海賊版サイト」のブロッキング問題については、ソフトバンクグループ取締役の宮内謙氏が回答。「著作権侵害については重要な問題だと思っているが、業界団体として『通信の秘密』を含めた法制度の問題や、運用の技術面を検討している段階。社内でも相当議論したが、両方の意見がある状態。国としても法案化などの議論が出てくると思うので、その上で対応したい」(宮内氏)

300年間成長し続ける企業集団へ

ソフトバンクの決算説明会において、毎回のように孫氏が語る「群戦略」という言葉。情報革命の中で300年間成長し続ける企業集団となることを目的に、過去の財閥ともベンチャーキャピタルとも異なる「ユニークな在り方」として孫氏が打ち出しているものです。

同じビジョンや目的を持つ企業に出資をするというものですが、孫氏は「従来の財閥モデルとは似て非なるものであり、51%以上の持ち株比率にこだわらず、20%〜30%をスイートスポットとして、各分野で世界No.1の会社ばかりを集めている。その中で、各社が喜んでシナジーを出し合うのが群戦略だ」と話します。

これまでの決算発表会でも、孫氏は群戦略という言葉を重ねてきましたが、今回はこれを「戦略的持ち株会社」という言葉に砕いて説明しました。ソフトバンクビジョンファンド(以下、SVF)が本格的に動き始めたからこそ、その意味をより本質的に理解されたいという孫氏の思いの現れでしょう。

  • ソフトバンク

    「戦略的持ち株会社」という言葉で、事業のシフトを印象付けた

SVFと国内事業との連携で新たな成長

群戦略=戦略的持ち株会社という単語において、その基盤となるのがSVFです。現在の投資先は約30社、営業利益は3,030億円と、グループ全体の増益に大きく貢献し、2018年度はそれを大きく上回る成果を見込んでいます。中でも、孫氏が大きな期待を示したのがライドシェアの分野。

「ライドシェアは自動車産業の業界地図に大きなインパクトを与えるものになると思う。全世界における1日あたりの乗車回数は3,500万回に達し、さらに伸びている。これらの企業が近い将来上場したとき、我々が業界全体の筆頭株主となる」(孫氏)

孫氏は、群戦略が正しいモデルか間違ったモデルなのかは歴史のみが証明するとし、「300年後、ソフトバンクの群戦略は正しかったといわれるようになるだろう」と自信をみせ、決算発表会を締めました。

  • ソフトバンク

    大きな成長を続けるUBER、DiDiなどのライドシェア。もはや「半公共的な交通機関」と評する孫氏

  • ソフトバンク

    今回も「群戦略」について改めて説明を重ねた孫氏。「それを正しいモデルと見るか、間違っていると見なすか、歴史のみが証明する。300年経ったら、あれは正しかったと思っていただけるだろう」