宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新理事長として、元京都大学教授の山川宏氏が就任、4月2日に記者会見を開催し、これからの抱負を語った。山川新理事長は52歳。JAXA初の研究者出身の理事長として、今後、日本の宇宙開発の現場を率いることになる。新理事長の任期は、2018年4月1日から2025年3月31日までの7年間。

  • JAXA新理事長の山川宏氏(左)と、前理事長の奥村直樹氏(右)

    JAXA新理事長の山川宏氏(左)と、前理事長の奥村直樹氏(右)

山川理事長の主な経歴は以下の通り。JAXAでは、ロケットや衛星の研究開発に従事し、日欧共同プロジェクトの水星探査ミッション「BepiColombo」においては、プロジェクトマネージャを務めた。その後、京都大学に移動し、スペースデブリの研究に取り組むと同時に、政府の政策立案に、識者として深く関わった。

  • 1993年:宇宙科学研究所システム研究系軌道工学部門 助手

  • 1997年:米国航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所 客員科学者

  • 1999年:宇宙科学研究所宇宙探査工学研究系宇宙自律システム工学部門 助教授

  • 2002年:欧州宇宙機関(ESA) 客員科学者

  • 2003年:宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系 助教授

  • 2005年:日欧水星探査プロジェクト「BepiColombo」 プロジェクトマネージャ

  • 2006年:京都大学 生存圏研究所 宇宙圏航行システム工学分野 教授

  • 2010年:内閣官房 宇宙開発戦略本部事務局 事務局長

  • 2011年:内閣府大臣官房 宇宙政策予算等準備室 室長

  • 2012年:内閣府 宇宙政策委員会 委員

JAXAでは発足以来、3代続けて民間出身者が理事長に就任していた。初代の山之内秀一郎氏(2003年10月~2004年11月)はJR東日本、2代目の立川敬二氏(2004年11月~2013年3月)はNTTドコモ、3代目の奥村直樹氏(2013年4月~2018年3月)は新日本製鐵の出身。4代目となる山川氏は初の研究者出身で、「身が引き締まる思い」とコメントした。

しかし、上記の経歴を見て分かるのは、山川氏のゼネラリストとしての側面だ。2010年以降は、宇宙開発戦略本部の事務局長など、政策立案する側で手腕を発揮。JAXA理事長への就任は、研究者としてよりも、そうした経歴からの流れとして捉えていたそうで、当初の報道で「研究者初」という点に注目されていたことを意外に思っていたそうだ。

山川理事長の任期中には、国際宇宙ステーションの運用が終了する予定で、次の国際協力ミッションの方向性が固まってくるはずだ。月に行くのか、それとも火星を目指すのか。米国は政権が変わる度に方針をひっくり返す前例があり、難しい舵取りが求められる。山川理事長に期待されているのは、ゼネラリストとしての視野の広さだろう。

  • 会見で意気込みを語る山川宏氏

    会見で意気込みを語る山川宏氏

山川理事長は昨今の宇宙業界について、「欧米でのニュースペースの登場や、中東・アフリカなど新興国の台頭により、競争が厳しくなっている」と指摘。「宇宙開発機関に期待される役割も変化している」とし、以下の2つのことを考えているという。

  1. 研究開発の成果が社会で活用され、根付く世界を実現する
  2. 新たな世界を切り拓く挑戦的な研究開発に取り組み、日本の宇宙航空分野を牽引する

上記1では、衛星測位技術の向上、観測データのオープンフリー化などを通し、衛星利用を社会インフラとして定着させる。またオープンイノベーションの活動や、ベンチャー・民間との協力もさらに推進する。活発化しているベンチャーの活動については、「研究開発や技術的な観点から支援したい」とした。

上記2では、国際的な機運が高まっている有人月探査について、議論に対応できる組織を準備する。国際協力による月探査に関し、日本の方針はまだ決まっていないが、山川理事長は「政府が判断しやすいよう、技術的な検討を進める」とコメント。「新しいパートナーや技術を積極的に取り組み、イノベーションを創出したい」と述べた。

山川理事長は会見で「自身の強み」を聞かれ、これに対し、「JAXA内部のほか、大学、政府、海外機関など、様々な視点や経験があるので、多少なりとも違う見方ができるのでは」と回答。今後、こういった経験を活かし、「JAXAが挑戦し続ける組織となるよう尽力したい」と意気込んだ。