日本酒の聖地? 飛騨高山の取り組みとは

日本における好例として、シンポジウムでは飛騨高山の地酒ツーリズムが紹介された。

白川郷や下呂温泉など、近くに有数の観光資源を有し、年間700万人の観光客(うち70万人は海外から)が訪れる飛騨高山。この地では従来から、地酒を観光資源として活用していたが、取り組み方は酒蔵ごとに異なっており、例えば酒蔵見学をオフの日に限定したり、試飲は無料で少量を提供したりといった具合だったそうだ。

天領酒造の社長で飛騨地酒ツーリズム協議会会長を務める上野田隆平氏が語ったところによれば、地酒を使った観光についての考え方が変わったのは、ワインの産地として有名なカリフォルニア州のナパを訪れた時だった。ナパのワイナリーでは、いつでも見学を受け入れる体制が整っており、試飲は有料(それも数千円)なのだが、それでも多くの観光客が来訪し、ワインを購入していたという。ナパ視察後、上野田氏らは地域の酒造組合で討議したが、多くの蔵元は試飲の有料化になかなか納得しなかったそうだ。

  • ガストロノミーツーリズムシンポジウムのスライド

    「日本酒の聖地」と打ち出す飛騨高山

日本人の清酒消費量が減り、地域の酒蔵も減少する中で、飛騨高山を「訪れる町」から「楽しむ町」に変えていこうとの理念のもと、飛騨地酒ツーリズム協議会が設立された。その理念に賛同する酒蔵と連携し、協議会では有料試飲に取り組んだり、飛騨の酒蔵紹介チラシを英語で作るといった施策を進めた。酒蔵と風光明媚な観光資源、そして地域の食材を組合わせ、「見る、飲む、買う」をメインに体験する観光地へと飛騨高山を変貌させていったのだ。

バリューチェーンの構築も不可欠

シンポジウムではガストロノミーツーリズムで大切にすべきものとして、バリューチェーンの重要性についても語られた。特に重要なことは、素材商品をそのまま取り上げるのではなく、加工や商品開発を通じ、商品として創り上げること。そして、単品として取り上げるのではなく、飲み物との組み合わせや観光資源との組み合わせにより、「持続可能な地域づくりにつなげる」ことがバリューチェーンであるとした。

それぞれの商品、商材の持つ価値をつなげることで、相乗効果を生み出すのがバリューチェーンだ。単に素材だけを取り上げることで、町に名産品を作るだけではチェーンにならない。

  • ガストロノミーツーリズムシンポジウムのスライド

    バリューチェーンを構築することで広がりと深みが出る

チェーンによる相乗効果をより生かすのが、ストーリーの存在だ。どこの町や村にでもあるものを取り上げては独自の文化になっていかない。素材や産品にまつわる背景や地域の特性をいかすことにより、初めてガストロノミーツーリズムの定義に当てはまる。