国立天文台は2月27日、「すばる望遠鏡」の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」を用いた日本・台湾・プリンストン大学の200名以上の研究者からなる国際共同研究において、2014年のファーストライト以降、約50晩の観測データを用いた研究成果がまとまったことから、同日、記者会見を実施した。
これらの研究成果が掲載された、日本天文学会欧米研究報告書「Publications of the Astronomical Society of Japan(Vol.70,No.SP1) すばるHSC特集号」には、HSCの観測データに基づいた、太陽系天体の探査、銀河、活動銀河核、銀河団、宇宙論などといった幅広い研究に関する40編もの査読論文が掲載された。
HSCは、アメリカ・ハワイのマウナケア山の頂上にある、満月9個分の点域を一度に撮影できるという性能を持つカメラだ。東京大学などの研究チームは、同カメラを用いて、ダークマターの分布を高い精度で描き出し加速膨張宇宙の謎に迫るために、従来のカメラでは観測が不可能だった暗い天体を1000平方度(満月5000個分)もの天域に渡って高解像度で撮影する探査観測を進めている。この大規模な探査観測は、2019年の末まで続く予定だ。
観測データから「ダークマターの地図」を作成
数々の研究が実施される中で、国立天文台、東京大学らの研究グループは、HSCを用いた大規模探査観測データから、銀河団の質量を測定する有力な手法である「重力レンズ効果」の解析に基づく史上最高の広さと解像度をもつ、「ダークマターの地図」を作成した。
また、この地図からダークマターの塊の数を調査したところ、もっとも単純な加速膨張宇宙モデルでは説明できない可能性があることが分かった。これは、加速膨張宇宙の謎を解き明かすうえで新たな知見をもたらす成果であるという。
さらに、観測された点域の画像の比較、および重力レンズ効果による天体像のゆがみにより、銀河の距離ごとに解析を行うことで、断層写真を撮影するように、「ダークマターの3次元分布」を得ることにも成功した。
それに加えて研究グループは、ダークマターの塊の個数や質量を計測し、重力レンズ信号の強度との関係性をヒストグラムにした。その結果、最新のプランク衛星による宇宙マイクロ波放射の観測結果と単純な宇宙モデル(LCDM)を組み合わせた理論予想値と比較したところ、観測結果が一定の有意度で下回っていることが分かった。
これらの成果に関して、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構の高田昌広氏は、「『単純な宇宙モデルの予想よりも、今回観測されたダークマターのかたまりの個数が少ない可能性がある』という、仮説と異なる結果となり、宇宙の膨張史の新たな扉を開けつつあるように感じる。しかし、今回の結果は観測計画全体の16% のデータに基づくものであり、まだピークのサンプル数が小さく誤差があるため、より詳しい解析を続けていく」などとコメントした。