今年1月に噴石が草津国際スキー場を襲った草津白根山、2014年9月に58人の命を奪った御嶽山の噴火を思い起こすまでもなく、日本は火山の多い国だ。温泉という自然の恵みと隣り合わせに、こうした火山災害の危険を抱えている。
かつて噴火した火山のなかには、おわんのような「カルデラ」と呼ばれる大きな窪地が火口の周辺に残ったものがある。溶けた岩石が大量にたまった地下のマグマだまりからマグマが噴き出し、空洞になった部分に地面が陥没した跡だ。九州の阿蘇山には、南北25キロメートル、東西20キロメートルほどの巨大なカルデラができている。約9万年前までに起きた複数回の噴火でできた。このとき、噴き出た高温の岩石や火山灰などが斜面を高速で流れ下る「火砕流」が、九州の広い範囲を覆った。
「巨大カルデラ噴火」とも呼ばれるこうした大噴火のうち、もっとも最近に起きたのは、九州・屋久島のやや北西の海底にある「鬼界(きかい)カルデラ」をつくった7300年前の噴火だ。カルデラの大きさは、差し渡しが20キロメートルくらい。この噴火でも火砕流や大量の火山灰が発生し、九州の縄文文化を滅ぼしたとされている。神戸大学の巽好幸(たつみ よしゆき)海洋底探査センター長らの研究グループは、2016年から3回にわたって、大学の付属練習船「深江丸(ふかえまる)」でこの鬼界カルデラの調査を行った。その結果をまとめた最近の論文によると、海底からの高さが600メートルにもなる巨大な「溶岩ドーム」が、カルデラの内側で確認された。この場所に盛り上がった地形があることは、海上保安庁などの調査で以前から分かっていたが、それが溶岩ドームと確認されたのは今回が初めて。この溶岩ドームは、現在も熱水を噴き出して活動を続けている可能性があるという。
溶岩ドームは、地下から噴き出したマグマが盛り上がって固まったものだ。九州・雲仙の普賢岳では1991年6月、山頂付近にできた熱い溶岩ドームが崩落して火砕流が発生し、報道関係者などを巻き込んで43人の死者・行方不明者を出した。巽さんらが鬼界カルデラで確認した溶岩ドームはそれよりはるかに大きく、直径は約10キロメートル、体積は32立方キロメートル以上と見積もられている。世界最大級の溶岩ドームだという。
この溶岩ドームの岩を削り取って調べたところ、その成分は、鬼界カルデラの縁で現在も噴煙を上げている薩摩硫黄島・硫黄岳などの溶岩と似ていた。7300年前の大噴火による溶岩の成分とは異なっており、この溶岩ドームは、カルデラができた後に、新しいマグマの活動によってつくられたと推定できるという。
巽さんによると、鬼界カルデラの地下には、巨大なマグマだまりが存在している可能性がある。それを確認するには、海底で人工的に地震を起こし、マグマだまりにぶつかって戻ってくる地震波を、たくさんの海底地震計でキャッチする大規模な観測が必要だという。「マグマだまり」は中学校の教科書にも載っているが、その具体的な形を観測で明らかにした例はないと巽さんは言う。この3月に予定している「深江丸」の4回目の観測では、海の中に残った火砕流の痕跡などを狙う。その先にあるマグマだまりの直接観測を、楽しみに待ちたい。
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