秘密は「フルMVNO化」と「eSIM」

それではH.I.S. Mobileの新サービスの秘密はどこにあるのだろうか? 実はこれは、ここ数年MVNO界隈で話題になっていた「フルMVNO化」が影響している。

フルMVNOとは、従来のMVNOではキャリアが管理している「HLR」(Home Location R)と「HSS」(Home Subscriber Server)をMVNOが自前で持つことだ。HLR/HSSはユーザーの情報を登録したサーバーであり、これがあればMVNOは独自にユーザーを管理し、SIMカードを発行・管理できる(現在はMNOからSIMを貸与されてユーザーに転売している状態)。MNOは物理的なネットワークや基地局だけを提供することになる(日本国内の場合、電話番号はMNOだけが所有しているので、まとめて卸してもらうことになる)。

ただし、MVNOがSIMカードを独自に発行できるようになったとしても、それだけで特に安くなったりするわけではない。フルMVNO化を進めているIIJがプレス向けの説明会で語った内容によれば、IIJはドコモとの間でデータ通信の卸電子通信役務契約を締結しており、安価な卸価格でデータ通信を提供できるのだという。

もし同様に他社がフルMVNO化した場合でも、同様に国内MNOと契約を結ばない限り、国内で通信するには、海外MNOから割高なローミングサービスを受けねばならないとの説明だった。はっきり明言されたわけではないが、IIJはドコモとの間で独占ではないにせよ、かなり有利な契約を結んでいる(あるいは契約自体が非常に難しい)のだと見られる。

日本通信は昨年1月に、海外の子会社(JCI Europe Communications Inc.)を通じて、ベルギーの「BICS S.A.」との間でフルMVNO契約を済ませており、今回のサービスはこの契約のもと、日本通信が独自に開発したSIMを発行し、そこに提携している各国のMNOが番号を付与する形になると見られる。

SIM自体はOTAで情報が書き換えられる、いわゆる「eSIM」の体裁を取っており、提携先の国に行くたびにスマートフォン用のアプリで切り替える。ローミングではなく1日単位で現地のMVNOとして契約するので、割安になるわけだ。国内向けはローミングを使うより、国内向けのSIMに差し替えた方が安上がりという判断だろう。

ちなみにSIMには元々仕様として、Javaアプリを実行するための「Java Card Virtual Machine」(JCVM)というOSが搭載されており、Javaアプリを保存するためのメモリも用意されている。H.I.S. Mobileが提供するSIMでは、この仕様も利用して、SIM上のアプリを使ってデータを書き換えるようだ。