京都大学は、同大 生態学研究センター研究員の鈴木俊貴氏が、野鳥の一種であるシジュウカラの研究を通して、単語からその指示対象をイメージする能力を、ヒト以外の動物において初めて明らかにしたことを発表した。

この成果は1月30日、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)にオンライン掲載された。

  • ヘビ特異的な鳴き声を聞き、ヘビを探すシジュウカラ/撮影:鈴木俊貴氏(出所:京大ニュースリリース)

    ヘビ特異的な鳴き声を聞き、ヘビを探すシジュウカラ/撮影:鈴木俊貴氏(出所:京大ニュースリリース)

シジュウカラは、天敵のヘビをみつけると「ジャージャー」と聞こえる特別な鳴き声を発し、仲間に警戒を促す。この鳴き声は、ヘビに遭遇した時以外に発せられることがないため、「ヘビ」を示す単語(名詞)である可能性がある。そうであれば、ヒトの言語と同様に、仲間のシジュウカラ(聞き手)にヘビのイメージを想起させる可能性がある。

この研究では、このヘビ特異的な鳴き声が、仲間のシジュウカラにヘビに関する視覚イメージを想起させるかどうかを検証した。まず、ヘビ特異的な鳴き声をスピーカーから再生してシジュウカラを誘引し、20cmほどに切った木の枝をヘビのように動かして提示する。次に、枝の一端に紐をつけて離れた場所から引っ張り、木の幹や地面の上を這わせた。シジュウカラが、ヘビ特異的な鳴き声からヘビの視覚イメージを想起して探索するならば、ヘビのように動かした枝に対して、特異な反応を示すと予想される。

ヘビに特異的な鳴き声を聞かせた実験では、ほぼすべてのシジュウカラが、ヘビのように幹を這い上がる枝に対して接近した。一方、ヘビ以外の天敵に対して発せられる警戒の鳴き声(警戒声)や、単に仲間を集めるための鳴き声(集合声)を聞かせた実験では、シジュウカラは枝の動きにはほとんど接近しなかった。また、同じ枝をヘビのように地面を這わせた実験においても、同様の結果が確認できた。

つまり、シジュウカラはヘビ特異的な鳴き声を聞いた時にだけ、ヘビのように幹や地面を這う枝に接近し、それを確認することが明らかになった。シジュウカラは、実際のヘビに遭遇すると接近して翼や尾羽を広げて威嚇するが、今回の研究では木の枝への接近は確認されたものの、威嚇行動に発展することはなかった。十分に枝に接近したことにより、近づいた対象がヘビではないと気づいたためであると考えられる。

最後に、枝の動きがヘビの動きに似ていない場合、シジュウカラがどのように反応するのかを検証した。 木の枝を低木に固定し、紐を使って左右に揺らすことで、ヘビに似ていない枝の動きを作り出した。これに対しては、ヘビに特異的な声を聞いた場合にも、ヘビ以外の天敵に対して発せられる警戒声を聞いた場合にもほとんど近づかなかった。つまり、ヘビに特異的な声を聞いたシジュウカラは、単に動く物体に接近するのではなく、ヘビのように幹や地面をはう枝に接近することがわかった。

  • ヘビ特異的な鳴き声を聞くと、木の幹(左)や地面(右)を這う枝をヘビだと勘違いして接近する(出所:京大ニュースリリース)
  • ヘビに特異的な鳴き声を聞くと、木の幹(左)や地面(右)を這う枝をヘビだと勘違いして接近する(出所:京大ニュースリリース)

これらの結果から、シジュウカラは、目の前にヘビがいなくても、ヘビ特異的な鳴き声から「ヘビ」の視覚イメージを想起し、それを目の前の物体に当てはめることでヘビを探索することが明らかになった。この研究は、鳥類がヒトと同様の認知機構を用いて音声の意味を理解していることを世界で初めて示した画期的な成果であり、動物のコミュニケーションに関する従来の解釈を大きく改めうる発見となった。