今回、SAPの取材を通してFES Watchの後継機種である「FES Watch U」やwena wristの第2世代モデルを触る機会があったが、初代の製品より遙かに質感が向上し、製品としての完成度が増していたことに驚いた。

  • FES Watch U(ソニー Webサイトより)

初代FES Watchは、ベルト部分がプラスティックでとにかく「安っぽい」という印象しかなかったが、FES Watch Uはバンド部分がシリコン素材になり、装着感が快適になっていた。また、ケース部分もガラスになったことで、初代とは比較できないほどに質感が増していた。

wena wristもラインナップが増え、時計やバンドとしての選択肢が増えただけでなく、質感が高まったように感じた。「初代から、この質感で出してくれれば」と本音が出てしまうが、やはり最初から、それを求めるのは無理があるのだろう。こうした後継機種の出来を見ると、このあたりが「ソニーがSAPを手がける底力」のように思う。

  • 第2世代製品のwena wrist pro

やはり、ぽっと出のスタートアップやベンチャーとなると、ハードウェアというWebサービスとは異なる"継続的な改善・改良"の難しさから、最初に出した製品で終わってしまうことが多い。しかしSAPであれば、後継機種を継続して開発でき、さらに完成度を高めた製品を出せる環境が整っているようだ。

実際、小田島氏はSAPに対して「スタートアップに着目した組織だが、継続的に事業を続けていくのがミッションだ」と語っている。まさに「継続は力なり」ではないが、製品開発を継続することで、良いものに仕上がっているのが手に取るようにわかるのだ。

安定したモノづくり、だけではないソニーの強み

また、SAPの強みとして「実際に手にとって試し、購入できる販路がある」という点も忘れてはならない。FES Watch Uであれば、時計専門店だけでなく、セレクトショップなどでも取り扱われている。wena wristも時計専門店や家電量販店で購入できる。

一番いい例はパーソナルアロマディフューザーの「AROMASTIC」だ。この製品は名前の通り、スティック糊ぐらいの大きさの機械のボタンを押すと、アロマが香ってくる。つまりこの製品の良さは「アロマを手軽に持ち運べる」という点に集約されるのだが、実際に体験しなければほとんどの人にとってその良さは理解できないだろう。

  • AROMASTIC(ソニー Webサイトより)

いくらソニーとてアロマ取り扱いショップの販路はなかったが、大手のニールズヤードなどをすぐに開拓し、実体験から購入までのスキームをすぐさま構築した。筆者の実体験として、Webサイトやプレスリリース上では正直、AROMASTICの良さが全くわからなかった。しかし製品に触れ、アロマを嗅いだところ、すぐさま病みつきになって、気付いた時には購入ボタンを押していた。

今の時代、「新しいモノを作る」ことは、アイデアがあればクラウドファンディングで資金を集め、中国に行って作ってくれる工場を見つければ具現化できる。しかし、ハードウェアがともなう「デバイス」は、それ単体で"バズらせる"ことは、モノがあふれるように存在する現代では至難の業だろう。

「ネットの住人」以外に認知してもらい、リアルの体験によって納得して購入してもらう。さらに、初代で終わらせることなく、継続して開発していくには、企業としての体力も不可欠だ。その点において、SAPは単に「ソニーのものづくり」だけでは語れず、販路開拓やマーケティング、広報といったサポート体制が充実しているのが、強みと言えるだろう。