みなさんは、家電製品に付いてくる取扱説明書、よく読んでいますか?
取説って読みづらいしなんだかつまらない……と読まずに捨てたりしていませんか?

申し遅れました、テクニカルライター/Webライターのもりれいです。

テクニカルライターとは、取説や技術文書などを作るプロのことです。
私は職業柄(というよりほぼ趣味で)たくさんの取説をコレクションしています。

ちょっとこちらの画像をご覧ください。

  • 取扱説明書

    「うつってる?」「OK!」と楽しそうなご夫婦 (TDK「BS-TA352」より引用)

これはかなり古いアンテナの取説なのですが、この感じ、なんとも言えず良くないですか……?

昔の取説は今に比べて自由だったので、こういった味わい深い表現がたくさんありますし、今の取説もほんのちょっと違う視点で見てみると実はすごく楽しいのですが、いかんせんあまり楽しんで読んでもらえません。
必要がなければまったく読まないという人も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、ふだん取説をあまり読まないみなさんにももっと親しんでもらえるように、私が2017年に集めた古今東西の取説の中で、ちょっと変わった視点から楽しめるものを5つご紹介したいと思います。

題して、発表! 2017年に「たまらなく良かった」トリセツ5選、始まります!!


■その1 急にフレンドリーになる (デジカメの取説)

まずはデジカメの取説からご紹介。
これは、トリミング撮影に適さない撮影場所の例を説明しているページです。

  • 取扱説明書

    壁から離れて! (カシオ計算機「EX-Z800」の「ダイナミックフォト広場」より引用)

影ができないように注意という説明はもう済んでいるのに、さらに(壁から離れて!)とカッコ書きの中からフレンドリーに呼びかけてくれている感じが大好きです。

テクニカルライティングの基礎として無駄を省くというルールのようなものがあるのですが、それに反したむしろおせっかいとも言える親切さがとても良いと思います。


■その2 意図せずカオスになる写真 (デジカメの取説)

  • 取扱説明書

    わーい、車の運転だ! (カシオ計算機「EX-Z800」の「ダイナミックフォト広場」より引用)

こちらも同じデジカメの取説なのですが、実はこの少年、取説の最初では車を運転するポーズをして車の絵に合成されていました。 ところが……

  • 取扱説明書

    崖……! (カシオ計算機「EX-Z800」の「ダイナミックフォト広場」より引用)

違うページでは、「撮影に適さない場所」の説明をするため、場面は一気にになります。

最初にしていた車を運転するポーズも打ち寄せる波の前ではカオスでしかありませんが、それでも本来の仕事である説明はきちんと果たしているところがニクイです。

こんなふうに感情が揺さぶられるエキサイティングな取説には、じんわりとした魅力を感じずにはいられません。


■その3 ヘロヘロな理由が謎 (電気ポットの取説)

私が好きな取説の表現のひとつに、擬人化というものがあります。
取説ではあらゆる家電製品が表情や感情を持ち、説明の助けをしてくれます。
困ることをすれば泣き、危ないことをすれば慌てる彼らはとても愛らしいものです。

このイラストもそんな擬人化表現のひとつ、なのですが……

  • 取扱説明書

    その顔の理由は……? (無印良品「U-MJ10」より引用)

やけどの原因になるので、湯わかし中はお湯を出さないでと言いたい電気ポット。こんなとき、たいてい擬人化された家電製品は怒ります。怖い顔をして、生やした手でバツ印を作ったり「NO!!」と言ったりするのが一般的です。

しかしこの電気ポットは、なぜかヘロヘロに。

目の焦点すら合わなくなる彼の表情を見ると、あぁ湯わかし中はお湯を出すのを止めてあげなきゃ……と思うのです。 なんというイラストの効果でしょう。目的を果たすという点で大変優れたテクニカルイラストだと思います。


■その4 すごくカッコいい女性 (レコーダーの取説)

  • 取扱説明書

    男性「VBRって?」 女性「VBR (可変ビットレート)は△※&%@▲◎~」 (ソニー「RDR-HX10」より引用)

こちらはあるハードディスクレコーダーの取説です。

取説と言えば小難しいことがズラズラと書いてある印象がつきものですが、こうしてキャラクターを通して語られると、難しいことも噛み砕かれて読みやすくなる効果があります。

この取説のイラストの二人はおそらく夫婦なのですが、つねに女性の方が機械にめちゃめちゃ詳しいのが最高でした。

男性が「VBRって?」と極限に少ない文字数で質問したのに対し、この女性の回答の文字数を見ていただければその詳しさは一目瞭然でしょう。同じ女性として、すごくカッコいいと思います。
VBRについての説明を果たすと同時に、女性は機械オンチ気味という固定概念を打ち砕いてくれているという点で、とても良いイラストだと思いました。


■その5 二色刷りでもがんばるレシピ集 (電子レンジの取説)

最後にご紹介するのは、電子レンジの取説です。

  • 取扱説明書

    二色刷り、それは取説の宿命…… (東芝「ER-D2」より引用)

家電製品の取説は、モノクロまたはこの取説のように青色や紫色などの二色刷りが基本なのですが、それでもレシピを載せようと頑張っているこの取説の姿勢が素敵でした。

見映えが命である料理の写真も、二色刷りだとこのような有様。
本当なら(メーカーに予算さえあれば)フルカラーにしたかった!という取説制作者の心の叫びが聞こえてくるようです。

それでも、たとえ二色でもせっかく電子レンジを買ってくれたお客様に電子レンジで作るレシピを紹介したい……そんな思いで生まれた取説ではないかと勝手にドラマを想像すると、思わず胸が熱くなってしまいます。
もう何年も前の取説ですが「がんばれ!」と応援したくなったのでピックアップさせていただきました。


■お願い: 取説は捨てないで(できれば読んで)ください……!

いかがでしたか?
ふだん何気なく見ている(またはほとんど見ていない)取扱説明書にも、意外と面白いところがあると思いませんか?

それに取説には保証書サポートの連絡先が載っていますし、「困ったときは」のページはいざというとき便利なので、捨てたりせずに必ずわかるところに保管してください。

そして、できれば作り手の工夫に思いを馳せながら、一度ゆっくり読んでみていただけるととても嬉しいです。

著者プロフィール


もりれい

もりれい
テクニカルライターとして某大手家電メーカーの取扱説明書をメインに制作。2016年からWebライターとして「ヌートン」やテクニカルユニット「テク×テク団」で活動。テクニカルライターの経験を生かし執筆した同人誌「テク×テク」が販売中。