NTTデータ経営研究所は12月8日に、『金融デジタルイノベーションの時代』をテーマとしたセミナーを開催。同セミナーにおいてNTTデータ経営研究所で研究理事を務める山上聰氏は「社会のデジタル化と銀行のデジタル・トランスフォーメーション」についての講演を行った。

  • NTTデータ経営研究所 研究理事の山上聰氏

    NTTデータ経営研究所 研究理事の山上聰氏

プラットフォーム企業は金融事業に参入し始めている

アメリカのフォーチュン誌が発表する全米の総収入ランキング「Fortune500」に掲載されている企業のうち、2000年以降、52%が合併吸収や倒産で入れ替わっており、2015年には55%が赤字に陥っている。企業寿命の短命化も顕著で、NASDAQ上場企業のうち500銘柄を集めた「S&P500」の平均存続年数は、1958年は「58年」だったが、2020年には「12年」まで短縮すると予測されている。

山上氏は「現代は顧客のデジタルなニーズに応えられない企業が淘汰される『デジタル自然淘汰の時代』であり、金融業を含むあらゆる産業において、企業文化やビジネスモデルへの変革が必要な時代だと認識する必要があるでしょう」と現代の環境を分析する。

世界の時価総額ランキングを見ると、トップ30社のうち14社がプラットフォームビジネスを展開しており、特にBIGTECHと呼ばれるGoogle、Apple、フェイスブック、アマゾン、アリババなどの企業は、創業時の事業と異なる領域に参入している。

「フィルムカメラメーカーKodakは、2012年に14万5000人も失業者を抱えて倒産することになってしまいましたが、ちょうど同じ年、インスタグラムがフェイスブックから10億ドルで買収されます。写真を記録することから手軽に共有して楽しむことへ、ニーズの変化に気付かなったことが両社の命運を分けた大きな要因と言えるのではないでしょうか」

また、プラットフォーム型企業は3億~20億規模の顧客基盤を持ち、データを活用して利益を生み出している。近年、これらの企業の共通点として挙げることができるのは、金融サービスに乗り出していることだ。

「AppleはApple Payという支払いサービスを展開していますし、アリババは投資信託を販売したりクラウドファンディングを実施したりと、金融事業での売り上げを大幅に拡大しています。来年以降アリババが日本に本格参入するという話も出ており、国内の金融機関と戦いが起きる可能性も高いでしょう」

  • プラットフォーム型企業は金融事業に乗り出している

    プラットフォーム型企業は金融事業に乗り出している

プラットフォーム企業の脅威やキャッシュレスに出遅れるリスクを認識すべき

ネットプレイヤーが金融のフィールドに参入している中、金融危機後の規制強化によって収益機会が大幅に縮小している欧米の金融機関は、伝統的な手法では限界が来ていることを自覚し、抜本的なビジネスモデルの革新に向けて歩を進めているという。

「銀行経営に影響を与える経済環境を分析すると、地方経済の低迷や異業種の金融ビジネス参入、マイナス金利の長期化による収益悪化など、マクロの要因がほとんどで、自ら影響を与えることのできる部分はそこまで多くありません。唯一、デジタルへの投資が自分たちで影響を与えられることなのではないでしょうか」

  • デジタル投資の意思決定は避けて通れない

    デジタル投資の意思決定は避けて通れない

ただし、デジタル化するかしないかの議論ではなく、どうやってデジタル化するかという議論になってきてるのだと、山上氏は指摘する。アジャイルでリスクを分散しながら、顧客の利便性を重視した開発をし、"当たる確率を高める"行動が重要になってくるという。

では、どのような取り組みが必要なのだろうか。山上氏は、実際海外で進められているデジタルトランスフォーメーションをいくつか紹介してくれた。

「アメリカの金融機関・ウェルズファーゴは、外部から技術を持ってきて顧客接点をデジタル化する点が特徴。カードレスのATMや顔認証など、顧客ビジネスをデジタル化することに投資し、消費者の活動場所に次々とアプリを導入していきます。そうすると、従来売上を店舗へ支払いに来ていた顧客は、アプリで全部済ませるようになり、銀行は支店を削減することができるというわけです」

  • ウェルズファーゴの包括的なアプローチ

    ウェルズファーゴの包括的なアプローチ

シンガポールの銀行では大手2行が対照的なアプローチを行っているという。

「国営の投資会社が7割出資をしているDBS銀行は、保守的なカルチャーを持っているからか、内部改革からデジタル化を着手しました。反対に、中小企業への貸し出しがメインであるUOB(United Overseas Bank)は、スタートアップへの投資で企業を育成し、共同で顧客にデジタルEC基盤を提供しました。2行の取り組みからわかることは、自行の強みをどのような技術で活かしていけばいいのか考えることが重要だということです」

では、日本はどうだろう。

「金融機関の独占的地位は、金融システムの安定維持に関する規制に守られていますが、技術革新で新たな競合が現れ、規制が社会のニーズを反映して変化していくと、既存金融機関の地位は低下傾向をたどります。銀行が躊躇しているうちに決済機能はアンハンドルされ、ほかのサービスの中に取り込まれつつあるといえるでしょう。日本はキャッシュレスが実現できておらず、デジタルトランスフォーメーションでは海外よりも出遅れています。邦銀のデジタル化対応は試行錯誤の段階で、ビジネスモデルの変革にはまだ至っていません。プラットフォーム企業の脅威やキャッシュレスに出遅れるリスクなどに、しっかりと目を向けるべきでしょう」