AIはマーケティングの現場でどう生きるのか

野口氏は、AIXONの具体的な利用シーンについてこう説明する。

「これから不動産を購入しようとしている人や今問い合わせしている人のデータを教師データにして予測モデルを作ります。次に、その予測モデルを使って、その人と似ている人をHOME'Sや他のデータベースなどから探していきます。従来は、そうした分析を人手で行っていたため、人が判断する基準でしか顧客を探すことができませんでした。そこにAIを取り入れることで、これまでできなかった層にアプローチできるようになります」

不動産での顧客セグメンテーションというと、「30代男性」「正社員」「年収○万円以上」「子供が生まれたばかり」「クルマを所有している」といった項目から「住宅の購入を検討している層」を絞り込んでいくことを想定する。ただ、こうしたペルソナやデモグフィックを使ったやり方では、分析軸の設定が正しいかは予想の域を出ない。また、本当に購入につながったかを確認するには、追跡調査など時間とコストが必要になる。どうしても精度に限界が出てしまうのだ。

AIを活用すると、過去の膨大なデータから傾向を抽出して「おそらく住宅の購入を検討している層」をこれまでにない視点からセグメンテーションしてくれる。また、MAツールと連携することでキャンペーンの実施結果から予測モデルや施策の改善につなげていくことができる。実際にマーケティング支援を行う時は、デジタル技術をうまくアナログ作業に取り入れていくことがポイントだという。

「マーケティング支援は、不動産会社の広告担当の方との共同作業です。『分譲マンションの1つの物件を売りたい』がゴールだとすると、その物件の情報をヒアリングして、どういうユーザーがいるかを設計します。その情報をもとにAIの予測モデルを作り、チューニングを行って、どのような広告を配信すればリターゲティングできるかを提案します。さらに、施策を実施した後は、結果を見ながら次にどんな施策を行っていけばいいかを一緒に考えていきます」(野口氏)

AIの予測モデル作成やモデルのチューニングも、Appierのエンジニアやデータサイエンティストなどとの共同作業だ。AIは、同じ作業をただ繰り返すのではなく、学習して改善していくことが大きな特徴だ。そのためには、単にシステムやサービスを導入して終わりではなく、人手をかけながら育てていくことが大きなポイントになってくる。

重要なのは目標設定と結果の評価

現在は作成したモデルを使った検証作業をスタートさせたところだ。野口氏は、その結果を見ながら今後さまざまな領域でAIXONを活用していきたいと話す。

「まずはHOME'Sのサイト内での利用が考えられます。例えば、ユーザーの属性に合わせて、どのような賃貸物件をどのような形式で提示すればいいかに関する分析などです。また、HOME'Sの広告配信に利用することで、離脱したユーザーのリターゲティングなどを今までより効率的に行うことができるようになります。B2BマーケティングとHOME'S事業は、それほど大きく変わるわけではありません。今回の成功モデルが、賃貸物件やリターゲティング広告などにほぼそのまま活用できると期待しています」

さらに、HOME'Sなどの住宅事業以外での活用も視野に入れている。LIFULLの事業は、引っ越しやトランクルームの検索サイト、インテリアのECサイト、介護や保険の検索サイト、フラワーギフトのECサイト、サンプルレビューサイト、飲食スペースやコワーキングスペース運営といったさまざまな事業を展開している。こうした事業でもAIをうまく取り入れていく構えだ。

「AIの仕組みを導入してあらためて感じたのは、目標設定の重要さです。何のためにAIを入れるのか、どんなデータを使って何を導くのかをしっかり決めないと、望む結果を得ることができないと感じています。われわれが目標にしたのは「PDCAサイクルを速めること」です。不動産会社の担当者とのやりとりや意思決定の速度を速めます。そのためにはターゲティング精度の向上が必要で、そのためのツールとしてAIXONを選択しました」

AIに限らず、注目を集めているというだけで、ツールを導入し、結果として失敗するケースは枚挙にいとまがない。野口氏はそうした事態を避けるためにも、目標設定の明確化と結果の評価が重要だと指摘する。

「目標がしっかりしていると挑戦や失敗がしやすくなります。たとえ挑戦して失敗したとしても『そのやり方では成果がでなかった』という教訓を得ることができます。この教訓は次の成果につながりますから『失敗はなかった』ということもできます」と野口氏。

こうした姿勢は、CDOとしてデータ戦略を立案、実行する際に気をつけていることでもある。AIXON導入の成果は2018年4月頃には具体的に確認できる見込みだ。その結果を踏まえて、新しい挑戦を続けていくつもりだ。