北海道大学(北大)は、コオロギが音の周波数によって逃げ方を変えることを発見した。同成果は、昆虫の聴覚系が周りの状況を把握するために使われている可能性を示したものである。

同成果は、北大 大学院生命科学院の福富又三郎氏、小川宏人 教授らによるもの。詳細は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に公開された。

コオロギは両方の前肢に鼓膜器官をもち、さまざまな音を聞くことができる。また、腹部後端にある尾葉と呼ばれる感覚器官で周りの空気の流れを感知し、その突然の変化を捕食者の接近として捉えて、気流のやってくる方向から逃げようとする。

研究グループはこれまでの研究で、コオロギが何も行動を起こさない10kHzのトーン音を聞くと、次に来る気流に対する逃げ方を変えることを発見していた。しかし、どんな音に対しても同じように逃げ方を変えるのでは、音を状況判断に用いているとはいえない。そこで今回、周波数の違う2つの音刺激を使って、この気流に対する逃避行動に対する影響を調査した。

研究グループは、ボール型のトレッドミル装置の上を自由に歩行できるコオロギに5kHzと15kHzの2種類のトーン音を聞かせ、そのすぐ後に気流刺激を与えた時の逃避歩行運動を解析。その結果、どちらの周波数のトーン音も、それだけではコオロギは行動しなかったが、音刺激の後に与えた気流刺激に対する逃避行動の違いがみられた。

  • コオロギ

    (A):コオロギの気流感覚器官(尾葉)と聴覚器官(鼓膜器官)、(B)ボール型トレッドミル装置。コオロギは空気流で浮かせた発泡スチロール製のトラックボール上を自由に歩行できる。2 つの光学マウスでボールの回転を検出しその回転量からコオロギの運動を記録する (出所:北海道大学Webサイト)

15kHz音を聞かせると、コオロギは気流刺激に対して逃げにくくなったが、5kHz音を聞かせても逃げにくさは変わらなかった。ただし、逃げる移動距離は、15kHz音を聞かせた時の方が5kHz音よりも長くなった。また、気流刺激を真横から与えたとき、コオロギに前もってトーン音を聞かせると、聞かせなかった時に比べて真横よりも後方へ逃げるようになったが、その度合いは15kHz音の方が5kHz音よりも大きなものだった。そのほか、15kHz音を聞かせると、逃避行動におけるターン角度(つまり逃避行動の後にどちらを向いているか)をよりばらつかせたが、5kHz音ではそのような影響はなかった。

このように音の周波数によって逃避行動への影響が異なることから、コオロギが聴覚に基づいて状況を把握し、いろいろな行動に反映させている可能性が示唆された。

研究グループは同成果に関して、昆虫も音を状況判断に用いるという昆虫聴覚系の新たな側面を示したものだと説明している。