「越境する」をテーマに科学者や市民が未来の科学や技術のあり方を語り合う科学フォーラム「サイエンスアゴラ2017」(科学技術振興機構主催)が26日、3日間の日程を終えて閉幕した。テレコムセンタービル(東京都江東区青海)で11月24日から3日間にわたって開かれた今年のサイエンスアゴラでは、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏らの基調講演のほか6つのキーノートセッション、ブース展示やセッションなど約150件が企画され、約5000人の参加者でにぎわった。

基調講演(24日)では、インドネシア・ガジャマダ大学前学長のドゥイコリタ・カルナワティ氏と、2006年にノーベル平和賞を受賞した経済学者のムハマド・ユヌス氏が講演した。「科学者の社会的責任としての挑戦;災害多発地域でのレジリエントな社会の開発」のタイトルで講演したカルナワティ氏は、現代のテクノロジーを社会で利用する際には、地域の実情に応じて利用者に使いやすい形で提供することが大切だと強調。ユヌス氏は「3つのゼロの世界を達成するテクノロジーとソーシャルビジネス」のテーマで、社会のシステムを変えることで貧困を減らすことができると語りかけ、金もうけのためではない無私のビジネスが必要だと訴えた。

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    写真1 「創造性を社会問題の解決に向けよう」と語りかけるユヌス氏。

キーノートセッション「貧困×ジェンダー」(24日)では、首都大学東京教授の阿部彩氏が、日本の貧困について、若年層やひとり親世帯の貧困率が高く、貧困層ではたんぱく質の摂取が不足しているといった特徴を指摘。NPO法人クロスフィールズ代表理事の小沼大地氏は、貧困の解決には科学者が社会へ「越境」することが大切であり、みんなが共通の目標を定めて取り組めば、それが集合的な大きな力になると強調した。

「人工知能(AI)との共生 ~人間の仕事はどう変化していくのか?~」(25日)では、「AIの進歩で人間の仕事がなくなるといったおおざっぱな話ではなく、現在の仕事の流れのうちで、どの部分をAIに任せることができるのかという個々の議論が必要」「AIという便利な道具を使わない企業は弱体化する。計算に電卓を使わないようなものだ」「これまで100人でしていたことを数人でできるようになる仕事もある。要するに、社会がどういう未来を望むのかという話だ」といった発言が登壇者から聞かれた。

「ゲノム編集時代の生殖医療と私たち」(26日)では、遺伝子を改変する「ゲノム編集」の受精卵などへの応用を、日本の社会はどうとらえるべきかを議論した。どのような技術であれミスがおきる可能性をゼロにはできないこと、安全性をチェックする方法も具体的には決まっていないことなどが登壇者から報告され、会場の参加者からは、「生まれてくる子の病気をゲノム編集で治すことができるようになったとき、『自然に産みたい』という思いからその治療を拒む親は、社会から批判を浴びるようになるのではないか」といった懸念も示された。

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    写真2 社会の価値観と科学が深く関係する「ゲノム編集と生命の誕生」について議論された「ゲノム編集時代の生殖医療と私たち」のセッション。

また、サイエンスアゴラ2017の連携企画として25日午後、仙台市で開催された「世界防災フォーラム前日祭」の模様が中継された。

今回の会場となったテレコムセンタービルでは、1階中央のアゴラステージを見下ろすように周回する3~5階の通路やアゴラステージ脇に、84件の展示ブースなどが並んだ。このうちで際立った「お笑い数学ネタライブ&数学大喜利チャレンジ」「復興期における被災地の課題と科学コミュニケーション」「ドラマ「遺伝学的検査が家にやってくる!?」」「親子でチャレンジ!-17の世界目標を通じて地域課題をクリアしよう!-」の4企画に、閉幕セレモニーでサイエンスアゴラ賞が贈られた。

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    写真3 来場者と出展者がいっしょになって楽しんだブース展示「みつばちからポップコーン サイエンティストになろう!」。

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    写真4 サイエンスアゴラ賞を受賞した4企画の代表者。

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