日本科学未来館 7F 未来館ホール (東京・お台場)にて、カプコンの大人気サバイバルホラーゲーム『バイオハザード7 レジデント イービル』のホラーサウンド制作の裏側に迫るイベント「NATIVE SESSIONS x MUTEK.JP - BEHIND THE SCENES OF BIOHAZARD 7」が開催された。本セッションは、デジタルアートと電子音楽の祭典「MUTEK.JP 2017」内での開催となっており、カプコンのサウンドクリエイター自らにより、そのホラーサウンドの制作秘話が語られた。

今回の『NATIVE SESSIONS』は、日本で2回目の開催となる電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP」内にて実施された。同イベントでは、本セッションのみならず、世界中のアーティストによるインスタレーションやエキシビジョン、ライヴパフォーマンスなどが繰り広げられた

イベント冒頭には、Native Instrument Japanのマーケティング コーディネーター・高橋亮氏によるサンプラーの歴史、カプコンのオーディオディレクターである岸智也氏によるゲームオーディオの歴史についてのプレゼンテーションが披露された。岸氏は、レトロゲームに代表されるPSG音源にはじまり、MIDIやサンプリングによるサウンドの進化、StreamによるCDクオリティーのサウンド再生、インタラクティブなサウンド生成を可能にするDSP/サラウンド技術、さらには最新のVR/AR、3D Audioに至るまでの系譜を、実際のゲームサウンドの再生などを交えながら解説していた。

カプコンの岸氏は、ゲーム音楽の歴史について、懐かしいカプコンの人気ゲームのサウンドなどを各年代ごとに実際に再生しながら、わかりやすく紹介

続いてのイベント本編では、「バイオハザード7」のサウンド制作に関わったカプコンサウンドチームの3名(オーディオディレクター・鉢迫渉氏、サウンドデザイナー・宇佐美賢氏、コンポーザーの森本章之氏)が登場。前半パートでは、「バイオハザード7」のホラーサウンド制作にあたり考え抜かれたというコンセプトやその研究過程にて発見されたざまざまなアプローチなどが明らかにされた。特に興味深かったのが、落語家である桂枝雀師匠の"緊張の緩和"にインスピレーションを得たテクニックが、ゲーム内のホラーサウンドにも応用されていること。これは、森本氏が大の落語ファンであったことから、鉢迫氏と検討を重ね実現したものだ。また、ゲーム内の音楽だけでなく、フォーリー(効果音など)についても、その制作ワークフローなどが詳細に紹介された。Strings FX、Foley FX、Voice FXなど3つのカテゴリーで収録が行われ、AKG C414やSCHOEPSなどのマイクが使用されたとのこと。今回のプロジェクトで、フォーリーのために約700個のプロップや環境音、キャラクターの動作音などを含む130GB(24bit/96kHz)以上ものデータが用意されたというのも驚きであった。

カプコンサウンドチームの宇佐美氏(左)、鉢迫氏(中)、森本氏(右)。「バイオハザード7」のホラーサウンドは、膨大なホラー映画の音楽や効果音の研究、ホラーの定義や解析にはじまり、4年もの歳月をかけて生み出されたと鉢迫氏

「バイオハザード7」の、楽音や効果音の境目なく構成された楽曲は「ミュージックコンクレート」の技法が取り入れられている。また、「ミュージックアトモス」と命名された、日常と恐怖のシーン間を補完するようなグラデーション的サウンドも重要な役割を果たしているとのこと

蜂の羽音や、声優を起用しての不気味な声やノイズ、ツボの破壊音、チェーンソーの駆動音、パイナップルを割る音など、リアルさを追求したアイディアに溢れた効果音収録の模様も惜しみなく開陳してくれた

イベント後半パートでは、会場に用意された簡易的なフォーリーステージ(録音ブース)を使った効果音レコーディングの実演も。ゲーム内に登場するモンスター「モールデッド」をイメージした効果音を作るにあたって、モンスターの要素を細かく分析し、その要素ごとにサウンドをいくつもサンプリングし重ねていくにつれ、非常にリアルなサウンドへ変化していく様子がリアルタイムに体験できた。さらに、森本氏による音楽制作についてのワークフローの紹介もされた。Native InstrumentsのKONTAKTをメインで使用しており、CAPCOMオリジナルの「REMM」という音源プレイヤーに、収録した膨大なサウンドをライブラリとして読み、加工したり効率的に利用できるようにしているという話だった。

無音状態の動画を確認しながら、録音ブースで糸こんにゃく、ローション、油麺、落花生、粘土などを合わせて、スライム状の物体の効果音を作り出すしている様子。元の素材からは、想像できないようなグロテスクなサウンドに仕上がっていた

会場入口では、セッション後半でも登場したカプコンオリジナルの音源「REMM」が一般に初公開されていた。また、GarageBandとのレビューでも紹介したNative Instrumentsの最新モデル「Komplete Kontrol S49 / S61 mkII」や「MASCHINE mkIII」もハンズオン展示されており、来場者の人気を集めた

「NATIVE SESSIONS x MUTEK.JP - BEHIND THE SCENES OF BIOHAZARD 7」は、サンプラーの歴史とゲームオーディオの歴史からはじまり、バイオハザード7のサウンド制作にあたってのコンセプトの定義、その作成や収録の方法、フォーリー録音の実演、オリジナル音源を活用した音楽制作ワークフローなど、普段はなかなか知ることのできないゲームサウンド制作の裏側を垣間見ることができた非常に貴重なセッションとなった。