九州大学は、自閉症スペクトラム(ASD)の非定型的な視覚認知が、脳内ネットワークの神経結合の病気である機能的結合異常(コネクトパチー)に由来することを突き止めたと発表した。

ASDの視覚ネットワーク異常模式図。1次視覚野(V1)では、ブロッブ系(色知覚に関与)の機能低下(青点線)とインターブロッブ系(形態視に関与)の代償性の機能亢進(赤線)がみられる。高次視覚野では、低次視覚野で処理された局所的な情報の統合(全体的)処理が障害されている(緑点線)(出所:九州大学プレスリリース)

同研究は、九州大学大学院医学研究院の山﨑貴男学術研究員と飛松省三教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、11月8日に神経科学国際誌「Frontiers in Neuroscience」のオンライン速報版に掲載された。

ASDでは視覚情報に対して知覚過敏や知覚鈍麻がみられ、それらの知覚異常がASDの社会性障害の基礎である可能性が指摘されているが、2000年代になっても、その脳内メカニズムはほとんど分かっていなかった。同研究グループは誘発脳波(ある刺激に対する脳の特異的反応を捉える検査)や拡散テンソルMRI(神経線維の走行を捉える検査)を用いて、ASDの視覚認知に関する研究を10年継続的に行ってきていたという。

同研究チームは今回、これら一連の研究成果及び文献的考察から、ASDで生じている視覚ネットワーク異常に関する新しいモデルを発表し、ASDの病態は単一の脳領域の障害ではなく、複数の脳領域間の複雑な機能的・構造的な脳内ネットワークの障害が本質であることを示した。また、ASDは「神経結合(connect)の病気(-[o]pathy)」という意味である 「コネクトパチー」であるという新しい疾患概念を提唱した。

今後は、ASDが「コネクトパチー」であるという観点から、様々な非侵襲的脳機能計測法や数理学的解析法を用いて、ASDの病態解明をさらに進めていきたいと考えているという。視知覚異常はASDの診断基準にも採用されているが、客観的な指標は未だ確立しておらず、同研究をさらに発展させることで、ASDの早期診断バイオマーカーの開発、早期の治療介入にも貢献したいと考えているということだ。