様々な業種で人工知能というキーワードを目にしない日はないほどの昨今、テクノロジー企業としてクリエイティブアプリを開発するAdobeも、数年来、人工知能を取り入れたソフトウェア開発に取り組んできた。しかし、Adobeは「汎用的な人工知能を開発しようとしているわけではない」と強調する。Adobeの人工知能開発の強みは、コンテンツとクリエイティブ・プロに対する深い理解と学習だというのだ。

Adobeの人工知能、Adobe Senseiは、コンテンツ理解、プロのクリエイターの作業などを深く理解し、3時間の単純作業を3分で済ませる効率性をもたらす。空いた時間を、新しいクリエイティブ制作に充てほしい、とメッセージを送る

例えば人物が写っている写真があった場合、クリエイティブの現場ではその写真を最適化したり、人物を切り抜いたり、文字を重ねて作品を仕上げるなど、クリエイターが何をするか、どのようなワークフローが待ち受けているかを知っている。Adobe Senseiは、そうした作業を効率化したり、より素早く最適なクリエイティブに仕上げる手助けをすることを目指すために使われる人工知能、というわけだ。

例えばマシンビジョンによるコンテンツ解析は、人工知能の中でもよく例に挙げられるテーマだ。Adobeが基調講演で披露したPhotoshopのプロトタイプでは、iPad Proで描いたポスターのラフスケッチから「人物」「女性」などのキーワードを見つけ出し、自分が撮影した写真やフォトストックから、該当する写真を用意してくれる。ワンタッチで女性だけを切り抜き、背景に馴染ませることができるのはもちろんのこと、女性の顔のすぐ下にあるスライダーを操作すると、向きの違う女性の写真を連続的に並べて、最適な顔の向きの写真に入れ替えてくれるのだ。もちろん、切り抜きを適用した状態で、だ。

Adobe Sensei以前のPhotoshopで同じことをしようとすると、自分の写真ライブラリから、女性の写真をフォルダに入れておかなければならないし、使うかどうかは別にして、あらかじめ全ての角度のパターンの写真を切り抜いておかなければならない。つまり、最適な顔の角度を検討するために、膨大な下準備の時間を取らなければならないことになる。

開発版のPhotoshopのプレビュー。右側にはAdobe Senseiとの対話画面があり、コンテクストに応じて自分の写真ライブラリやフォトストックの検索、適用するマスクなどを提案してくれる

そうしたワークフローを知って入れば、Adobe Senseiがクリエイティブの現場に何をもたらすか、一目でわかる。単純作業の時間を、クリエイティブの時間に活用できる、ということだ。

そして、「Creative Graph」というキーワードも新鮮だった。クリエイティブのワークフローを記録し、判断が分かれた部分に戻って、別のパターンを検討し直すことができる。前述の例では最初のラフスケッチは「女性」として出発したが、これを「男性」として出発し、ほかの要素をそのまま活用すれば、男性バージョンのポスターをワンタッチで作成できるのだ。