京都大学(京大)は9月6日、データ同化によって、砂や粘土といった地盤材料の変形を計測したデータをシミュレーションモデルと融合し、より実際の地盤の動きに近い予測ができるような適切な構成モデルと弾塑性材料の材料パラメータを決定することに成功したと発表した。

同成果は、京都大学農学研究科の村上章 教授らの研究グループによるもの。詳細は国際科学誌「International Journal for Numerical and Analytical Methods in Geomechanics」に掲載された。

EC/LC 弾塑性モデルの降伏曲面の形状(出所:京都大学Webサイト)

土質材料に力が加わった際にどの程度の変形が生じるのか予測するには、一般的に材料の弾塑性モデルが用いられる。土質材料の変形は複雑であり、これまでに多くの弾塑性モデルが提案されてきた。

現在でも、土のすべての変形挙動を記述できるモデルは存在せず、対象とする現象に応じて適切なモデルを選択することが求められる。これに加えて、土の変形挙動を予測するために数値シミュレーションを行うとしても、必要な材料パラメータが事前に決定できないことがほとんどであった。

今回の研究では、このような状況を効果的に改善するため、数値解析手法として土の変形と地中の水の流れを同時に解くことのできる土―水連成有限要素法を用い、土の変形のシミュレーションに適切な土の弾塑性モデルと材料パラメータを、データ同化手法を通して決定することを試みた。

同研究で用いた弾塑性モデルの特徴は、土がせん断を受ける際の体積変化に関するパラメータを変化させることで幅広い降伏曲面4形状を表現できる点で、この体積変化を正確に記述できない場合、シミュレーションと実際の地盤の変形が異なる原因になる。

同モデルは幅広い体積変化を表現できる有用なモデルであり、この降伏曲面の形状に関するパラメータ―を決定することで、適切な弾塑性モデルを選択できる。また、シミュレーションと実際の観測値を繋ぐ手段として、データ同化手法の中でも非線形フィルタの1つとして知られる粒子フィルタを用いた。同モデルを用いた土の変形問題では、数値シミュレーションのための離散方程式は非線形方程式となり、カルマンフィルタのような線形フィルタでは対応できない問題にも適用が可能である。

また、今回の手法を用いた成果として、神戸空港の地盤の変形予測を改善した例がある。同手法を用いた予測結果と実際の観測値、設計時のシミュレーション結果を比較してみると、同手法は従来のものに比べ実際の観測値と近い予測ができていることを確認したという。

同研究チームは、このように、データ同化手法を地盤の変形計算にうまく組み込むことで、土の基本的な変形特性を確認しながら地盤強度を精度よく予測することが可能となっていくと説明している。