新潟大学は、歯の中にある歯髄と呼ばれる神経組織の傷の治癒期における、炎症や痛みに関与する生体内物質プロスタグランジン E2の輸送経路と新たな役割について明らかにしたと発表した。

同研究は、新潟大学医歯学総合病院の大倉直人助教らの研究グループによるもので、同研究成果は、7月31日にネイチャー・パブリッシング・グループの英国科学誌「Scientific Reports」で公表された。

研究成果概要と今後の展開(出所:新潟大学プレスリリース)

むし歯は進行すると歯の内部組織である歯髄に波及し、炎症や痛みを生じる。歯科医師は、むし歯による感染が歯髄にまで達してしまうと歯髄を除去し、いわゆる"神経を抜く"治療をするが、この除去は歯をやむを得ず削ってしまうため物理的に歯を脆弱化させ、将来的に喪失リスクが高まってしまう。そこで、歯髄自身が持つ高い自己治癒力を利用した「できるだけ歯を削らない」治療法を考えたということだ。

プロスタグランジン E2は、炎症などの治癒過程に関与する生体内物質として知られており、プロスタグランジントランスポーター(PGT)と呼ばれる輸送タンパクによって細胞の中から外へ運ばれ、その後、特異的な受容体(EP)と結合することで機能を発揮する。その中で、EP2やEP4が傷の治癒過程に重要であると考えられているが、これらの輸送経路に関わる各タンパクに対する歯髄組織での発現部位とその役割については報告が存在していなかった。

同研究グループは、ラットの歯に穴を開けた後、その部位に特殊な薬剤を置くことで歯髄組織を治癒に導かせるモデルラットを作製し、治癒過程におけるプロスタグランジン E2経路の基盤となるトランスポーター(PGT)およびそのレセプター(EP2)に関する発現部位とその役割について解析した。その結果PGTやEP2は、正常時の歯髄組織では、象牙芽細胞・神経線維・血管に発現していた。さらに、治癒部に認められる象牙芽細胞では、特徴である突起部にのみ発現していることを確認し、細菌が損傷部に侵入するのを早急に防ぐための象牙質形成に関与している可能性を明らかにした。また、損傷を受けた3日後には、末梢神経部においてPGTが発現するとともに遺伝子発現についても活性化する所見を得たことから、プロスタグランジンE2が歯髄内での神経保護作用にも関連している可能性が判明したということだ。

今後は、プロスタグランジンE2を制御し、より早く治療に導き、できるだけ歯を削らない治療法を確立していきたいということだ。