マイディアグループに入って1年

石渡: 彼(方洪波CEO)の持論は、「企業は必ず衰退する。むしろ、いまがピークにいると考えた方がいい。だから、常に手を打たなくてはならない。自分自身を変えられなかった企業は衰退していくことになると考えた方がいい」というものです。そして、その最たる例が東芝だと指摘します。東芝はあれだけすばらしい技術を持ち、ブランドが強いのに衰退した。それはやり方を変えていないからだというわけです。我々もいろいろな面で変えなくてはならない。

たとえば、そのひとつが事業部制を強くするという点です。権限と責任をより明確にするための一手です。東芝時代には、開発本部や品質統括本部、営業本部などの横串の本部制を持ち、ここに縦串として、事業部を置く体制としていたのですが、洗濯機事業部、冷蔵庫事業部、クリーナー事業部といったように事業部ごとに、製造、販売、技術の3つのファンクションを持たせ、製品軸をより強くすることで、責任を明確にすることにしたわけです。当然、販売は事業部ごとに仕組みを持っていると無駄ですから、ここは、プラットフォームという言い方をして、横串を刺します。ただ、工場管理や開発、品質管理は、事業部ごとに責任を持って進める体制へとシフトしました。

――中国企業ならではのスピード感についてはどうですか。

石渡: ディシジョンメイキングのスピードの差は、東芝時代とはまったく異なります。日本の企業は、様々なことを、あらゆる角度から検討し、そして、決めたあとは一丸になってやるという手法です。決めたあとは速いという特徴がありますが、前段階の検討が長いという課題があります。

マイディアの場合は、それとは異なり、まずは方向性を決め、細かい部分は走りながら決めていくというやり方です。もし、そのなかで不具合があれば、修正すればいいというわけです。その考え方を、少しずつ、東芝ライフスタイルの経営やモノづくりのなかに持ち込んでいます。これから登場する商品のなかで、こうしたマイディア流のやり方を採用したものが出てくることになります。

――部品調達におけるスケールメリットは表れていますか。

石渡: これは、今後、部品ベンダーを統一していくことで生まれると期待しています。マイディアの事業規模は、東芝の白物家電事業の10倍の事業ですから、これまで1個しか買えなかったものが、一緒に買うことで、11個買うのと同じ規模で調達できるようになります。ただ、これまでの東芝の商品開発は、マイディアと一緒になることを前提に開発してきたわけではありませんから(笑)、部品がまったく違います。

今後、商品開発の段階で、調達までを含めた開発、設計をしていくことで、調達面でのメリットが生まれることになります。つまり、これからは、11個で買うことを前提として設計するというわけです。たとえば、コンプレッサーを同じものにしていくということがその一例です。

買収されても変わらないこと――「TOSHIBA」品質

石渡: ただし、部品の品質認定においては東芝の基準があって、それは変えるつもりはありません。これは商品開発のスピードにも影響してくる問題であり、部品調達にも影響してくる重要な問題です。たとえば、ある部品の検査においては、東芝では3000時間の検査を行っていました。マイディアグループからすれば、「長すぎる」、「スピード感がない」という意見が出ていますし、「それは1000時間ではいけないのか」という指摘があるのも事実です。

しかし、我々は、長い間の経験と積み重ねで、3000時間の耐久性を検査しないと、この部品は認定できないということがわかっています。安全基準でも、この部分は難燃材を使わなくてはならないというところは、過去において、火が出たりといった経験があり、万が一、火が出ても燃えないように難燃材で囲うことにこだわるわけです。白物家電はなんだかんだといってもアナログ商品ですから、経験値の積み重ねが大きい。譲れるところと、譲れないところがあり、東芝の品質を維持するためには、譲れないところは徹底して、それを維持します。

実は、昨年、マイディアグループの傘下に入って以降、東芝の品質基準は、まったく変わっていません。むしろ、ひとつも変えた部分はないと断言できます。