――ストリート系で言うと、タイガは今回新しく3Dモデルが作られています。

今作ではじめてCGによるショーのシーンが作られたタイガ(右)

乙部氏:
CG側からすると、タイガの衣装は前回も登場したバトルスーツのみで、新しい衣装は作画なんです。

実はバトルスーツ以外のCGモデルもあったんですが、本編の尺の都合で使われないことになってしまいました。彼のプリズムジャンプ「祭だワッショイ! フォーチュンボーイに花束を」用の法被衣装のモデルで、モデリングまで終わっていました。

――完成していたのにお蔵入りしてしまったんですね。彼のプリズムジャンプを見たいという方は多いと思うので、いつか日の目を見るといいですね。

乙部氏:
そう思います。これについては菱田さんを責めておきますので(笑)

また、CGのモデル的にはタイガの出来が一番いいです。最後に作ったモデルだからというのもあるんですけど、もし何かこの先の展開があるなら、キャラクターCGモデルの基準はタイガになってくるんじゃないかなと思いますね。

――出来というのは、どのあたりを見ると分かるのでしょうか?

乙部氏:
顔もそうなんですが、首のライン、肩のへこみだとか、そういったディテールですね。

タイガのCGモデル

今後基準になる、と言いましたが、今作でもすでに(タイガのモデルから)何人かには流用しています。たとえばルヰは、前のモデルそのままではなくて、のど仏にちょっとラインが入るような改造を施しています。この辺りは松浦さんのこだわりらしいので。

ルヰのCGモデル

――ここからは、プリズムショーの制作についてお聞きしたいです。シンとルヰが河原で行うプリズムショーのシーンを例に、キンプリでのCGシーンの制作の流れを教えてください。

乙部氏:
まずキャプチャを撮って、シチュエーション的に背景のモデリングをしていきました。河川敷で踊るということは分かっていて、河原がリンクのようになる演出は監督から指定がありました。異空間になっているような感じですね。

また、菱田監督から、橋の上でヘッドランプが点いて印象的な光が見えたらいいなというオーダーがあったのですが、橋を見上げるアングルからだとヘッドライトは見えないので、どう実現しようかと悩みました。菱田さんとしては「そういう風に見えればいい」とのことでしたので、キラキラした丸い連続した光を流して、曲のサビ直前に橋のサイドからパンと点灯するようなエフェクトを作り、これを監督が気に入ってくださったので、そういったセットを組みました。

――ショーの際に流れる曲は「CRAZY GONNA CRAZY」ですが、振りつけはプリティーリズム・レインボーライブ(以下、RL)の主題歌を担当したPrizmmy☆のバージョンでしょうか?

シンとルヰのダンスシーン

乙部氏:
その通りです。ただ、RLの本編でプリズムショーに使われたものではないですから、前作から転用できるアセットはありません。今回のためにモーションキャプチャを行いました。

監督のオーダーで、ルヰ役のダンサーは女性、シン役のダンサーは男性にお願いしました。ふたりの性別をそろえなかったのは、ルヰのダンスには女性的なしぐさがほしいという狙いがあって、つまりルヰの「中身」をそこで表現したいということでした。

腕を組む振りのところでは、どうしてもダンサーさんの身長差に関係した動きになるので、シンとルヰに落とし込むにあたってわずかに肩の上がり方を変更しました。とはいえ、調整としてはその程度です。こうしてモーションをCGモデルに反映し、カメラワークをつけていきました。

――このシーンで何か苦労した点などはありましたか?

乙部氏:
自分自身の話ではないんですが、当初、このシーンは菱田監督とは違う方に絵コンテをお願いしていて、その方がルヰの解釈に深く悩んでいたことが記憶に残っています。3~4カ月くらい格闘されていたんですが、最後は監督が描き直して今のバージョンになっています。

好きすぎる、というのともまた違うというか。ルヰの設定を全部ダンスの中で表現しようとして、まとめることが不可能になってしまったようでした。

――ルヰの「正体」についてもそうですが、プリティーリズムシリーズと関係した伏線が多く盛り込まれていて、公開直後からファンの方々がSNS上で考察を繰り広げていますね。

乙部氏:
実は、僕自身作り手なのに気がつかなかったところが結構あって、SNS上での考察の中には、ほぼ正解にたどりついている方もいたらしいですね。

マスターデータを見ている僕ではなくて、劇場で各々のシーンを一瞬だけしか見られないファンの方がよくこれだけ気がつくことができるなと驚きました。公開初日、翌日に「まだ7回しか見ていない」というようなツイートも拝見したので、回数は見ていただいているのかもしれませんけど(笑)