理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター免疫器官形成研究グループの古関明彦グループディレクター、増井修研究員らの国際共同研究チームは6月9日、マウスを用いて、エピジェネティクス制御因子であるポリコーム複合体が、不活性X染色体の形成過程に重要な役割を果たすことを発見したと発表した。本研究は、米国の科学雑誌『Science』に掲載された。

哺乳類の性染色体の構成はオスがXY、メスはXXだ。Y染色体は50個ほどの遺伝子しか持たないのに対し、X染色体には約1,000個の遺伝子が存在している。このXY性染色体間の遺伝子量(転写量)の不均衡を是正するために。メスの2本の染色体のうちの1本は「X染色体不活性化」という仕組みによって、遺伝子が動かなくなっている。

不活性X染色体は、「Xist遺伝子」の転写産物でノンコーティングRNAの「Xist RNA」がX染色体の全域を包み込むように蓄積して、クロマチンが高度に凝集したヘテロクロマチン構造をとることによって形成される。その際に、クロマチン上にポリコーム複合体(タンパク質複合体)のPRC1とPRC2というエピジェネティクス修飾因子を呼び込むと考えられている。その転写抑制に関する分子機構について、これまではXist RNAはまずPRC2に結合し、続いてPRC1を呼び込むというモデルがあったが、まだ実験的な照明は十分に行われていなかった。

今回、理研を中心とする国際共同研究チームは、4つのサブタイプがあるPRC1のうちPCGF3またはPCGF5を持つ「PCGF3/5-PRC1」に着目し、Pcgf3/5遺伝子を欠失させたノックアウトマウスやマウスES細胞(胚性幹細胞)を用いて詳しく解析した。その結果、これまでのモデルとは逆で、Xis RNAはまずPCGF3/5-PRC1を呼び込み、クロマチンを形成しているヒストンH2Aの119番目のリジン残基をユビチキン化し、その後でPCR2を呼び込みヒストンH3の27番目のリジン残基をメチル化し、標的遺伝子の転写を抑制するという分子機構が実験的に示された。また、PCGF3/5-PRC1はXist RNAが持つ標的遺伝子に対する"転写抑制能力"に重要な役割を果たしていることも結論付けられた。

Xist RNAのX染色体不活性化における新旧の分子機構

本成果をもとに今後、哺乳類が進化の過程で獲得してきたX染色体不活性化という高度な制御を受ける生命現象の理解がさらに進むと期待される。