産業技術総合研究所(産総研)は、茨城大学の岡田誠教授、国立極地研究所の菅沼悠介准教授、千葉大学の亀尾浩司准教授、国立科学博物館の久保田好美研究員を中心とする22機関32名からなる研究グループが、千葉県市原市にある地層「千葉セクション」が地質時代の国際標準模式地(Global Boundary Stratotype Section and Point、以下GSSP)に認定されるよう、6月7日、国際地質科学連合(International Union of Geological Sciences、以下IUGS)の専門部会に提案申請書を提出すると発表した。

千葉セクション(千葉県市原市)の位置(出所:産総研Webサイト)

地質学では、地球上の岩石が形成された年代や生物化石等の変遷に基づき、地球の歴史を115の時代に分けている。そして、地質時代区分を標準化するため、それぞれの地質時代境界について地球上で最も観察・研究をする上で優れた地層1カ所をGSSPと認定している。ただし、時代区分の定義、名称や年代などは絶えず見直されており、まだGSSPが決定していない地質時代もある。

更新世の前期と中期の境界は最後の地球の磁場逆転が起きた時期で、GSSPが決まっていない境界のひとつである。この境界のGSSPとして認定されるためには、海底下で連続的に堆積した地層であること、地層中にこれまでで最後の磁場逆転が記録されていること、層の堆積した当時の環境変動が詳しく分かることという3つが推奨条件が必要となっている。

市原市田淵の養老川岸の地層「千葉セクション」で見つかった白尾火山灰(出所:産総研Webサイト)

この境界のGSSPには、千葉県市原市の地層「千葉セクション」のほか、イタリア南部にある2つの地層も候補に挙がっている。千葉セクションがGSSPに選定されると日本初のGSSPとなるうえ、地質時代名称として初めて日本の地名が使われることになる。

千葉セクションの地層が堆積した時代における日本周辺の環境・気候条件を模式的に図示(出所:産総研Webサイト)

研究グループは、過去70年にわたる先人の研究成果をまとめた論文を国際学術誌に発表。次に、千葉セクションから見つかった地磁気逆転境界付近の火山灰層の年代測定を行い、記録される地磁気逆転の年代を高精度で決定した。さらに、千葉セクションの地層は、堆積物がゆっくりと降り積もる深海環境で形成されたことを、詳細な観察と分析から明らかにした。加えて、地磁気逆転の記録と当時の海洋環境変動を高解像度で復元し、世界各地の海底堆積物や南極氷床コアの分析から求められた記録と比べ、千葉セクションの地磁気逆転の記録が矛盾しないことを確認したという。

千葉セクションから発見されたいろいろな微化石(出所:産総研Webサイト)

さらに、超高解像度での花粉化石の分析、海域の環境変動を復元するための微化石の分析、地球化学的分析をそれぞれ行って当時の気候の復元を試みたという。これらの結果から、千葉セクションが堆積した当時の日本周辺の気候変動が詳細に復元可能であり、この場所が世界の気候変動を研究する上で非常に適していることを明らかにした。これらの研究により、千葉セクションが前期~中期更新世境界のGSSPの申請に必要な条件を、高いレベルでクリアしていることが明確に示されたという。

IUGSでの審査の結果、千葉セクションがGSSPとして選定された場合は、約77万年前~12万6千年前の地質時代が「チバニアン」という名称になる。千葉セクションがGSSPとして選定されることは、地質学だけでなく、日本の科学史においても重要なこととなり、また、地質学の一般への普及や学校教育においても、大きな波及効果が期待されると説明している。