電気通信大学(電通大)は5月19日、強磁場におけるビスマスの電気伝導度が従来予測を裏切り、急激に上昇することを発見したと発表した。この上昇の起源は完全バレー分極であり、理論解析により100%バレー分極状態を達成したことが証明されている。
同成果は、電気通信大学情報理工学域Ⅲ類物理工学プログラム 伏屋雄紀准教授、パリ高等物理化学学校 Kamran Behnia教授らの研究グループによるもので、5月19日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
バレー(谷)とは、電子の運動量に起因した自由度で、それを制御・利用する「バレートロニクス」の応用に向けた期待が近年高まっている。電荷やスピンは電子1個の性質であるのに対し、ひとつのバレーは10~17個程度電子の集団により形成されるため、バレーを制御するには、電子集団を丸ごと制御する必要がある。これまで、バレーを形成する電子の数を磁場で変える「バレー分極」は実現できていたが、バレーの電子集団を丸ごと生成・消滅することはできていなかった。
今回、同研究グループは、3つの電子バレーを持つビスマスの特殊な電子状態に着目。ビスマスに対して加える磁場の強度や方向をさまざまに変化させる実験を行い、約50Tの強磁場において、電気伝導度が急激に上昇することを発見した。
このことは従来の「半導体になり、伝導度は大きく降下する」という予想と正反対の結果となる。磁気抵抗の測定結果について理論計算により詳しく解析したところ、伝導度の急上昇は100%バレー分極によるものであることが明らかになった。これまで磁場により完全バレー分極を達成できた例はなく、今回のビスマスでの報告が初めてだという。
さらに、3つある電子バレーのうちひとつだけを消し去るか、あるいは2つを同時に消し去るかということを、磁場の方向を変えるだけで制御できるということもわかっている。
同研究グループは今回の成果について、今後、他の物質でも実現可能か、さらに低い磁場でも達成されるかなど、さまざまな分野へ波及し、バレートロニクスの新たな展開が生まれていくことが期待されると説明している。