名古屋大学 宇宙地球環境研究所長の草野完也教授が参加する米国、中国、日本の国際共同研究チームは、太陽フレア爆発の前兆現象の詳細観測に成功した。この観測は、世界最大の太陽望遠鏡である米国ビッグ・ベア太陽観測所のニュー・ソーラー・テレスコープによる史上最高精度の太陽観測によって行われ、新たなフレア発生予測につながる成果として注目される。

ビッグ・ベア太陽観測所(画像提供:New Jersey Institute of Technology)

本研究は、ニュージャージー工科大学のハイミン・ワン教授をリーダーとする国際共同研究チームによって、世界最大の太陽観測望遠鏡である米国ビッグ・ベア太陽観測所のニュー・ソーラー・テレスコープ(口径 1.6m)を使って大型フレアを観測することで、大規模な太陽フレア爆発の発生前に小規模な発光現象が発生することを発見したもの。さらに、フレア発生領域の磁場構造をこれまでにない高い精度で観測することで、フレア前兆現象と考えられるこの小規模発光が太陽表面の反極性磁場領域から発生することを突き止めた。この結果は、草野教授らが2012年に発表したモデルに良く一致するもので、フレア爆発の発生条件の解明につながる重要な研究成果と考えられる。

世界最大口径の太陽望遠鏡ニュー・ソーラー・テレスコープ(画像提供:New Jersey Institute of Technology)

太陽フレアは太陽黒点の周辺に蓄積された膨大な磁場のエネルギーが突発的に解放される現象。その影響はしばしば地球にも及び、1989年にはカナダでの大規模停電や北アメリカ全域での電力網の被害が発生。また、宇宙飛行士の被爆、人工衛星の故障や軌道の離脱、通信被害、航空機運航への影響も発生している。被害を未然に防ぐため、日本をはじめ各国でこの現象の予測情報が公開されているが、突発現象である太陽フレアの発生を正確に予測することは困難であり、より正確な発生予測の開発が望まれていた。

ニュージャージー工科大学のハイミン・ワン (Haimin Wang)教授(左)と本領域代表の草野完也教授(右)(名古屋市にて)

本研究は、大型フレア爆発の前兆を初めて捉えると共に、太陽表面に現れる特徴的な磁場構造がフレア発生のトリガとして働くことを示すものであり、精密な太陽表面磁場の観測によってフレア発生を予測する新たな方法の開発につながる成果であると言える。

本研究成果の論文はNature Astronomy誌Webサイトにて2017年3月27日から公開されている。論文題目は「High-resolution observations of flare precursors in the low solar atmosphere (太陽低高度大気におけるフレア前兆現象の高精度観測)」。論文の筆者は、Haimin Wang,Chang Liu,Kwangsu Ahn,Yan Xu,Ju Jing,Na Deng,Nengyi Huang,Rui Liu,Kanya Kusano,Gregory D.Fleishman,Dale E.Gary,and Wenda Cao。また、本研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域「太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成(領域代表:草野完也)」の支援も得て行われた。