慶應義塾大学(慶応大)は、同大医学部整形外科学教室の宮本健史(先進運動器疾患治療学寄附講座特任准教授)らの研究グループは27日、飲酒後に赤くなりやすい体質の遺伝子多型を有する人は、その多型を持っていない人に比べてrs671の保有率の比較により、2.48倍、骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折をおこしやすくなることを明らかにし、ビタミンE摂取が予防に効果がある可能性も見出した。この研究成果は同日、学際的総合ジャーナル「Scientific Reports」誌に掲載された。

骨粗鬆症による骨折のなかでも最も重篤な「大腿骨近位部骨折」は、寝たきりや要介護の要因となるほか、死亡率も増加させることから予防が重要視されている。しかし、多くの骨粗鬆症治療薬が臨床応用されているにもかかわらず、大腿骨近位部骨折の発生数が増加の一途を辿っており、骨粗鬆症治療薬とは異なる方法の検討が必要となっている。

今回の研究では、腿骨近位部骨折をおこした92名を「大腿骨近位部骨折群(以下、骨折群)」、大腿骨近位部骨折を起こしておらず骨粗鬆症の診断基準も満たさない48名を「正常群」としてゲノム DNAを回収したという。

アルコール代謝の過程でアセトアルデヒド分解に重要なALDH2遺伝子多型のうち、飲酒で赤くなる体質の原因となる遺伝子多型であるrs671に着目し、その保有率を骨折群と正常群間で比較したところ、骨折群では正常群に比べてrs671保有率が高く、骨折のリスクが2.48倍高くなることが明らかとなった。

また、ALDH2の機能不全型遺伝子多型では、アセトアルデヒドの血中濃度が上昇することが報告されているが、アセトアルデヒドにより骨芽細胞の機能障害が生じること、そしてアセトアルデヒドによる骨芽細胞の機能障害はビタミンEであるTrolox Cにより回避できることが試験管内の培養で示されたという。

今回の調査で、「飲酒で赤くなること」と「ALDH2遺伝子多型を保有すること」が一致する確率が高いことから、お酒を飲むと赤くなる人は骨折しやすい体質であることを示唆している。これにより、お酒で赤くなりやすい人は遺伝子検査をしなくても骨折のリスク遺伝子を保有していることを知るための手がかりになると考えられる。大腿骨骨折は遺伝性があることが知られていたが、今回の発見はその1つと考えられる。また、リスク遺伝子多型を保有していても、そのリスクをビタミンEの摂取で減らせる可能性も示された。

この成果から、お酒を飲むと赤くなることが、本人や家族など周りの人が骨折のリスクに気づくための指標となり、家庭でできる高齢者の骨折予防へと発展することが期待できるとしている。