NECソリューションイノベータと群馬大学の研究グループは、ストレスにより増減する唾液中のアミラーゼのみに結合する核酸アプタマーの開発に成功したと発表した。

修飾塩基を導入した核酸アプタマー

同研究は、NECソリューションイノベータと群馬大学大学院理工学府の桒原正靖准教授の研究グループによるもので、3月3日、英国科学誌[「Scientific Reports」] (http://www.nature.com/articles/srep42716)に掲載された。近年、精神的または肉体的ストレスによって引き起こされる疾患の増加は大きな社会課題となっており、従来の心理療法に加え、疲労やストレスなどの体調を反映するバイオマーカーの検出に対するニーズが高まっている。 その中で、唾液は生体に影響なく採取できる生体サンプルであるため、唾液中のアミラーゼを用いてストレス状態を把握する研究が進められている。唾液中のアミラーゼは交感神経の直接神経作用とノルエピネフリンの制御との両作用で分泌され、ストレスにより唾液中のアミラーゼ濃度が増加すると言われており、糖尿病との関連も指摘されているという。

新規修飾核酸によるアプタマーの創製

NECソリューションイノベータと群馬大学は、2014年より「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」の採択を受け、人工核酸によるバイオマーカー簡易検出センサの技術開発を行ってきた。これまで、天然型核酸を用いたSELEX法(試験管内選択法)により、唾液アミラーゼに対する核酸アプタマーの創製を試みてきたが、十分な結合特異性を示すものは得られていなかったという。そこで、天然型塩基に別の塩基を修飾する新しい修飾コンセプトに基づく修飾塩基を設計・合成。開発した修飾塩基を用いて様々な配列の組み合わせを調製した核酸をSELEX法に適用したところ、唾液アミラーゼに対して解離定数が1nM以下という高い結合特異性を示す核酸アプタマーの創製に成功した。

この修飾核酸アプタマーの構造について、核磁気共鳴法(NMR)や円二色性を用いた分光学的測定法で詳細に調ベたところ、同じ配列でも修飾を含まないもの(天然型核酸アプタマー)とは大きく異なるスペクトルが得られ、修飾核酸アプタマーは天然型核酸アプタマーに比ベ複雑な構造をとっていることが示唆された。天然型核酸アプタマーは唾液アミラーゼに対して全く結合を示さないことから、修飾を入れることでアプタマーの構造が異なり、唾液アミラーゼに強く結合するようになったことが判明。さらに、この修飾核酸アプタマーを用いて唾液アミラーゼ検出用の簡易試験紙を作製し、実際の唾液中でアミラーゼが検出できることを確認したということだ。

今後は、今回の開発で得た修飾塩基の合成技術を用いて、これまで開発が困難とされていた他のストレスマーカーに結合する核酸アプタマーの開発を目指すという。また、今回開発したバイオマーカーのひとつであるストレスマーカーに結合する核酸アプタマーを用いて、簡易試験紙と比較し、ストレスの変化量をより正確に 測定することができる半導体チップの開発を目指すということだ。