アポロ以来の有人月飛行を目指す「EM-1」と「EM-2」

SLSの初飛行、そして実機のサービス・モジュールを含めたオライオンの初打ち上げは、今のところ2018年10月以降に予定されている。

この飛行はExploration Mission-1、略して「EM-1」と呼ばれており、SLSで無人のオライオンを月に向けて打ち上げ、月面から高度約7万5000kmの、月の自転と反対向きに回る軌道に入り、数日過ごした後、月を離れて地球に帰還する。これにより、オライオンが実際に月への往復飛行や、長期の宇宙航行に耐えられるかどうかが試験される。

EM-1が成功すれば、続いて有人飛行が行われる。このミッションはExploration Mission-2、略して「EM-2」と呼ばれており、現時点で2021年8月以降の実施が計画されている。搭乗する宇宙飛行士の数は最大4人で、今後の検討によって正確な人数が決定される。

EM-2でも打ち上げにはSLSを使うが、EM-1で使われる機体とは異なり、EM-2では「SLSブロック1B」と呼ばれる機体が使用される。主な違いはロケットの第2段で、EM-1では「デルタIV」ロケットの第2段機体を改修した「Interim Cryogenic Propulsion Stage」(ICPS)を搭載するが、EM-2ではより強力な「Exploration Upper Stage」(EUS)という新開発の機体を搭載する。

SLSブロック1Bによって打ち上げられたオライオンは、まず地球のまわる軌道に乗って確認や試験をした後、月へ向かう軌道に乗る。このときオライオンは、「自由帰還軌道」(Free return trajectory)と呼ばれる軌道に投入される。自由帰還軌道は、大掛かりなエンジン噴射などをせずとも、少ないエネルギーで自然に月でUターンして地球に帰ることができる軌道のことで、その言葉どおり、オライオンは月に接近後、月の裏側を通ってUターンし、そのまま地球へ向かって戻る軌道に入り、地球に帰還する。

打ち上げから帰還までは最短でも8日、また今後の検討などによっては最長21日間にまで延長される可能性もある。このEM-2によって、オライオンの生命・環境維持システムや、耐熱シールド、パラシュートといった各システムが、本当に有人飛行、それも長期間の飛行に耐えられるのかどうかが試験される。

無人での月周回飛行を目指すEM-1 (C) NASA

有人での月往復飛行を目指すEM-2 (C) NASA

トランプ大統領が命じた有人飛行の前倒し

2018年のEM-1、そして2021年のEM-2を経て、NASAの有人宇宙開発は新たなスタートを切る。その後の予定はまだ具体的にはなっていないが、月周辺に運んできた小惑星を有人探査したり、月周辺に国際共同で宇宙ステーションを建造したり、2030年代には有人火星探査を行ったりといった構想が立てられている。

しかし2017年に入り、この計画に注文をつける者が現れた。この年の1月20日に就任した、ドナルド・トランプ大統領である。

トランプ大統領は、EM-1を無人ではなく、2人の宇宙飛行士を乗せて実施できないか、言い換えればEM-2を前倒しできないか、とNASAに検討を依頼したのである。

その理由は、おそらく自身の大統領としての任期中に間に合わせるためだろう。すでにアポロ計画で行ったとはいえ、人が月に降り立つということは現代でも十分大きな出来事で、支持率の向上が期待できる上に、「有人月飛行を成し遂げた大統領」として、アポロ計画を動かしたケネディ大統領らとともに、歴史に名を残すことができる。

しかし、現在のトランプ大統領の任期は2021年1月までで、さらに選挙が前年にあることを考えると、EM-2の実施には間に合わない。そこで計画を前倒しして、任期中に実施することで自身の成果にするとともに、さらにその人気をもって、再選をも狙っていると考えられる。

この"トランプ大統領のアポロ計画"は、その情報が出るや否や、すぐさま大きな批判にさらされた。オライオンは一度試験飛行しているとはいえ、まだ完成しておらず、人を乗せて飛んだこともない。SLSに至っては一度も飛んでいない。そんなロケットと宇宙船に、いきなり人を乗せ、月まで行って帰ってこい、というのは無謀なように感じられる。

もっとも、トランプ大統領を擁護する要素がないわけでもない。たとえばNASAは、1981年にスペース・シャトルの初飛行で、いきなり宇宙飛行士を乗せて飛ばしている。また1968年には「アポロ8」ミッションで、アポロ宇宙船の初の月への飛行を無人ではなく有人で行い、さらにそれを打ち上げたサターンVロケットも初の有人飛行だった、という歴史もある。

さらにオライオンはすでに無人で一度飛び、月への往復飛行を模した試験にほぼ成功していること、そしてSLSは基本的にスペース・シャトルの技術を使っていることから、まったくのぶっつけ本番ではない、と言い張ることもできなくはない。

事前にしっかりと準備し、リスクをできる限り小さくすれば、不可能なことではない。

1968年に行われた「アポロ8」ミッション。アポロ宇宙船の初の月への飛行ながら、無人ではなく有人で行い、さらにそれを打ち上げたサターンVロケットも初の有人飛行だった (C) NASA

月を周回するアポロ8から地球 (C) NASA