「遠い世界に米国人が足跡を刻むことは、たいそうな夢ではない (American footprints on distant worlds are not too big a dream)」――。

米国のドナルド・トランプ大統領は2月28日(米国時間)、この日行われた議会演説の中でこのように述べ、直接的な言葉は使わないまでも、有人宇宙探査に対する意欲をみせた。

さらにその約2週間前、トランプ大統領は米国航空宇宙局(NASA)に対し、2021年以降に予定されている有人月探査計画を前倒しして、現在の任期中に間に合わせることができないか、と検討を要請した。

トランプ政権が発足して2カ月弱、宇宙政策に関する具体的な話はなかなか出てこなかったが、ようやく動きが見えつつある。

月を飛ぶオライオン宇宙船 (C) NASA

2月28日に議会で演説するトランプ大統領 (C) The White House

月を経て、火星を目指す長い旅

NASAは現在、2030年代に有人火星探査を実施することを目指し、新型の有人宇宙船「オライオン」と新型ロケット「スペース・ローンチ・システム」(SLS)の開発を進めている。

現在の計画は、2010年にバラク・オバマ大統領が発表した宇宙政策に基づいて進められている。この政策では、NASAの有人宇宙開発は、まず国際宇宙ステーションへの物資や宇宙飛行士の輸送などは民間企業に任せ、その代わりにNASAは、月や火星といった深宇宙への探査や有人飛行に焦点を絞る、という方針が定められた。

実は、オバマ大統領の前、ジョージ・W・ブッシュ政権のころにも、「コンステレーション計画」という別の有人月・火星探査計画があった。実際に新しいロケットや宇宙船の開発が進められていたものの、開発は難航。実現の可能性や、将来の発展の余地といった点からNASA内外から批判の声が上がった。

それを受け、政権を継いだオバマ大統領は、コンステレーション計画を中止し、実施時期は遅れるものの、より着実に月や火星を狙えるような計画に変更。その計画の中心的存在であるオライオンとSLSの開発は、これまでのところ多少の遅れは出つつも、前進を続けている。

オライオンはアポロ宇宙船を一回りほど大きくしたような形の宇宙船で、最大6人を乗せ、月や火星まで飛んで帰ってくることができる能力をもっている。

SLSはスペース・シャトルのロケット・エンジンやタンクなどを流用して開発されている超大型ロケットで、オライオンを打ち上げる有人ロケットと、月や火星への有人飛行に必要になる貨物や着陸船などを打ち上げる貨物ロケットの、2つの顔をもつ。

2014年12月5日には、オライオンの無人での初飛行が実施。機体の一部は実機ではなくダミーだったが、電子機器やパラシュートなどが設計どおり動くかが確かめられた。また月からの帰還に近い、秒速約9kmという猛スピードでの大気圏再突入に耐えられることも実証された。ただ、SLSはまだ完成していないため、別の既存のロケットで打ち上げられた。

NASAが開発中のオライオン宇宙船 (C) NASA

同じくNASAが開発中のスペース・ローンチ・システム(SLS) (C) NASA