中高年でも興味が持てるマーケティング

--どのようなユーザーがFinTechを使用しているのか?

李氏:現在、アリペイのユーザーは4億5000万人に達しており、若年層だけでなく、中高年も使用しており、都市部、農村部に関係なくスマートフォンやインターネットを使うことができれば活用している。

なぜ、アリペイが中高年が使えるかと言えば戦略的な投資を行っているからだ。流通企業と共同で毎年12月12日に「ダブル12」というキャンペーンを実施する。例えば、スーパーマーケットで100元の買い物をすれば50元をキャッシュバックするという半額セールに近い思い切りな販促を行うことで世間から大きく注目され、価格に敏感な中高年も引き込まれるわけである。

日本であればリスクを背負うことに対して慎重な側面があるが、中国では規制が明確でない分野なら「とりあえずやってみる」という風土があり、監督官庁も問題が出れば規制するという流れになっており、相対的に緩やかな規制環境も中国におけるFinTechの特徴でもある。

--中国におけるFinTechの課題は?

李氏:インターネットやIT技術を駆使して地域の制約がなく金融サービスをより身近なものにすることは良い一面であるが、課題は問題が起きれば、短期間に被害が拡大し、社会問題化になりやすい。また、中国は個人情報保護への取り組みは発展途上にあり、個人も企業も個人情報保護への意識もまだ高いと言えない。インターネットの上に存在する大量な個人情報が、知らないうちに不正に利用され、被害が出ていることが大きな課題ではないだろうか。

このように、FinTechのサービスで生まれたデータの所有者は個人なのか、プラットフォームを運営する企業なのか、それとも政府なのかという「データの権益」について最近注目されはじめ、中国ではブロックチェーン技術を活用してこの問題を解決しようという動きも出てきている。データは資源のため、将来的には法整備も必要ではないだろうか。

--今後の見通しは?

李氏:2~3年前まではアリババやテンセントなど大手のインターネット企業は伝統的な金融機関が提供しにくい「隙間」分野を埋めた形で新しいサービスを提供し、市場をけん引していたが、今後はブロックチェーンや認証サービス、人工知能、ビッグデータなどテクノロジーを活用して、さまざまな金融サービスを提供する企業が登場し、より魅力的なものになるのではないだろうか。1月に中国人民銀行では、ブロックチェーン上における電子手形の実証実験に成功したと発表し、実用化の事例が出始めており、中国のブロックチェーン企業を訪問した際は、2~3年間で実用化できるとのことだった。

日本企業は中国のFinTech有望企業を開拓すべき

--日本については?

李氏:これまで、日本におけるFinTechへの関心はシリコンバレーやイギリスを注視していた。しかし、昨秋あたりから日本の大手金融機関から中国のFinTechに対する問い合わせがあり、日本でも注目し始めたということが印象的だ。なぜ中国に注目しているかと言えば、ビジネスモデルや事業の内容、日本では想像できないことを手がけていることを参考にしたい、あるいは自社のイノベーションに取り組んでいる従業員に刺激を与えたいと、日本の企業は考えている。

従来のように、欧米を注視するのも良いが、欧米の技術を活用して中国で実用化から応用まで到るという意味では、中国に注目すべきではないだろうか。また、中国のFinTech産業に対する外資規制は未整備な部分もあり、例えばP2Pの企業やインターネット保険の企業にスタンダードチャータード銀行やモルガンスタンレーなど欧米の企業が投資しているなど、積極的に中国の有望企業を発掘している動きがみられるため、日本企業も同様のことができるのではないかと考えている。

日本は金融サービスは整備されているためサービスの隙間がなく、FinTechを活用した新しいサービスが生まれてくる可能性は低いと考えられがちだ。中国ほどFinTechを活用していないことから、現状のサービスで満足しているのではないか。すでに、グローバル競争は始まっており、日本の市場に参入するFinTech企業にどのように対応するのか、例えば協業してインバウンドに対応することにより、中国の莫大なマーケットを狙うなど、連携のあり方を考える必要があると考える。