慶應義塾大学(慶応大)は1月11日、患者のiPS細胞を用いて遺伝性難聴「Pendred(ペンドレッド)症候群」の原因を明らかにしたほか、新たな治療法を発見したと発表した。

同成果は、同大医学部生理学教室の岡野栄之 教授、耳鼻咽喉科学教室の小川郁 教授、NHO東京医療センターの松永達雄 部長らによるもの。詳細は米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。

Pendred症候群は、遺伝性難聴の中で2番目に患者数の多い病気で、SLC26A4遺伝子の変異によるペンドリン(PENDRIN)タンパクの異常が原因で進行性の難聴を起こすことが知られているが、その原因は良く分かっていなかった。

今回、研究チームはヒトiPS細胞から内耳細胞を効率的に安定して作成する方法を開発。併せて、Pendred症候群患者の血液から疾患特異的iPS細胞を作製し、患者iPS細胞と健常者iPS細胞から内耳細胞をそれぞれ作成して、比較検討したところ、患者iPS細胞由来の内耳細胞においてのみ細胞内に異常なペンドリンが蓄積することが確認されたほか、細胞ストレスに弱く、細胞がより死にやすくなっていることがわかったという。また、免疫抑制剤であるシロリムスを用いると、この死にやすさを改善できることも確認したという。

今回の成果について研究チームでは、Pendred症候群の進行性難聴は、多くの神経変性疾患と同様のメカニズ ムによって進んでいくことが示唆されたとするほか、シロリスムが進行性難聴を抑制する治療薬となる可能性も示唆されたと説明。また、今回の技術を活用することで、ほかの難聴に対しても研究を進められる可能性があり、今後、このアプローチを用いることで、ほかの遺伝性難聴疾患の病態解明や新たな治療法の開発につながることが期待されるとしている。

従来の仮説(上)と、今回の仮説(下) (出所:慶応大 Webサイト)