東北大学は11月15日、大気汚染物質がアトピー性皮膚炎の諸症状を引き起こす仕組みの一端を解明したと発表した。

同成果は、東北大学大学院医学系研究科の日高高徳医員、小林枝里助教、山本雅之教授らの研究グループによるもので、11月14日付の英国科学誌「「Nature Immunology」オンライン版に掲載された。

これまで大気汚染とアトピー性皮膚炎の患者数や重症度には相関があることが知られていたが、その理由は不明となっていた。一方で、大気汚染物質には転写因子AhRを活性化する成分が含まれており、大気汚染物質に暴露される表皮でAhRを恒常的に活性化させたマウス(AhR活性化マウス)が慢性皮膚炎を発症することがわかっている。

同研究グループは今回、AhR活性化マウスを利用してAhRの表皮での機能を詳しく解析することで、大気汚染によるAhRの活性化とアトピー性皮膚炎の関係を検討した。この結果、AhR活性化マウスは、皮膚のアレルギー性炎症やバリア機能障害、喘息様の症状を発症しやすくなることなど、ヒトのアトピー性皮膚炎とよく似た症状を示すことがわかった。さらに、AhR活性化マウスではアトピー性皮膚炎患者と同様に表皮内に神経が侵入しており、そのため痒みを感じやすい状態になることも明らかになった。

次に表皮の遺伝子発現を調べたところ、AhR活性化マウスの皮膚では神経伸長が見られるよりも前に、神経栄養因子arteminの遺伝子(Artn)の発現が誘導されることがわかった。arteminを働かなくする抗体の投与によってAhR活性化マウスの表皮内神経伸長と痒み過敏性が改善したことから、AhRがarteminの発現誘導によって痒み過敏性を引き起こしていると考えられる。

また、大気汚染物質を慢性的に皮膚に塗布することでもAhRは活性化され、正常なAhR遺伝子を持ったマウスでも、arteminの発現や表皮内神経伸長、痒み過敏性などAhR活性化マウスで起こる症状がみられたという。さらに、アトピー性皮膚炎患者の皮膚ではAhRの活性化が強い人ほどarteminの発現量が高く、AhRによるarteminの活性化がヒトのアトピー性皮膚炎にも関連することが明らかになった。

今回、AhRによるartemin活性化がアトピー性皮膚炎の症状を引き起こすと判明したことから、同研究グループは、AhRの活性やarteminの働きを抑える物質を探索することで、アトピー性皮膚炎の痒みをターゲットとした新しい発想の治療薬を開発できる可能性があると説明している。

AhR活性化によるアトピー性皮膚炎発症・増悪メカニズム