資生堂は2016年10月7日、日本マイクロソフトが開発協力したテレワークアプリケーション「TeleBeauty」を本社ビルで発表した。資生堂は、在宅で働き続ける女性の活躍を応援するため導入に至ったと説明する。「Office 365」や「Skype for Business」と連動し、テレワーク時も自然なメイク(化粧)を再現させる仕組みを構築した。

日本マイクロソフトが今年も「働き方改革週間(旧テレワーク週間) 2016」を開催するように、テレワークは日本国内でも浸透の兆しを見せている。だが、資生堂の調査によるとテレワークの1つに数えられるオンライン会議に参加する際は、そのために化粧を行う煩わしさや、自室がWebカメラに映り込んでしまうなど、女性特有の問題があることが分かった。そこで資生堂のメイク技術や1999年から店頭運用してきた化粧シミュレーション技術などを活用し、「TeleBeauty」の開発に至った。資生堂 執行役員 副島三記子氏は、自社社員も女性が多いことから今回の取り組みに注力し、「女性の美しい生き方に寄り添い、一生を共に歩むパートナーを目指す(副島氏)」ため、本プロジェクトを実施したという。TeleBeautyを通じて、「今まで試したことのない化粧から新しい自分に出会う切っ掛けになる(副島氏)」とその効果を強調した。

日本マイクロソフト 執行役員常務 織田浩義氏(左)と資生堂 執行役員 副島三記子氏(右)

TeleBeautyの開発に協力した日本マイクロソフト 執行役員常務 織田浩義氏は、安倍内閣総理大臣が2016年8月3日に行った記者会見で述べた「働き方改革」へのチャレンジを引用し、テレワークの重要性を強調。また、1995年当時と昨年2015年の働き方状況を比べると、リモート技術を活用して働く人々は約4倍、「Office 365」を活用する企業は日経平均銘柄の80パーセントまで増加したことを示しつつ、「時と場所を選ばず、人々が活躍できる環境が整いつつある(織田氏)」と状況を分析した。同氏は過去に同社が実施してきたテレワーク週間を通じて、女性の離職率が40パーセントまで低下したことなど数々の効果を上げていることを強調しつつ、「仕事は苦行であってはいけない。楽しむことで新たな文化に進化していく(織田氏)」と述べている。

資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり氏

TeleBeautyの概要だが、資生堂 宣伝・デザイン部 クリエーティブ企画室長 片岡まり氏によれば、本プロジェクトは在宅勤務時や長期出張時、海外との時差によって夜半に発生するオンライン会議へ参加する女性の声が切っ掛けだった。彼女らは「Webカメラのアングルから首やあごが太く見える」「肌がキレイに映らない」など女性特有の悩みを抱え、オンライン会議時への自信を喪失してしまうという。そこで自社や日本マイクロソフトの女性社員などを調査した結果、オンライン会議時に「血色感の再現」「美しい肌の再現」「肌色のコントロール」を実現するTeleBeautyの開発に至った。

TeleBeautyではビジネスシーンにおける化粧パターンとして、「ナチュラル」「フェミニン」「クール」「トレンド」といった4種類のバリエーションを用意。例えば営業職など好感度を高めたいなど、同時に多様な好みに対応する。使い方はシンプルな構成を意識しつつ、鏡を想起できるような楕円形ビューを採用。自動的に肌の色を調整するだけで済む。もちろんここから前述した化粧パターンの選択や、ソフトやシャープといった印象調整などカスタマイズも行える。さらに目元や口元といった個別の明るさ調整や、プライベートシーンを相手に隠すために背景をぼかすことも可能。このぼかし機能は単独でも使用できる。これらの設定は保存されるため、次回使用時はアプリケーションを起動するだけでよい。

TeleBeautyを起動した状態でSkype for Businessによるオンライン会議シーン。この状態で女性は化粧をしていない

普段からSkype for Businessを利用している方はTeleBeautyの構造に疑問をお持ちだろう。日本マイクロソフト 業務執行役員 本部長 アプリケーション&サービスマーケティング本部 越川慎司氏の説明によれば、TeleBeautyは単独のアプリケーションとして起動し、Webカメラから取得した映像をリアルタイムでフィルターリングする。そしてその結果をSkype for BusinessのAPIを通じて、インターネットの向こうに送信する仕組みだ。つまり、フィルターによる加工はローカルで実行し、加工した映像はインターネット経由で配信している。ネットワークの遅延やPCのパワー不足が懸念されるが、「顔の動きに追従するよう工夫を凝らした(片岡氏)」という。また、このような取り組みは資生堂はもちろんMicrosoftでも初めてで、Microsoft本社Skype for Business責任者も「ベリークール! 何でも協力する」と越川氏へ回答し、TeleBeautyの実現にはMicrosoft/日本マイクロソフトが一体となった協力体制があったようだ。

フィルターとして「フェミニン」を適用した状態。説明では目元がハッキリした

こちらは「トレンド」を適用した状態。片岡氏の説明によれば、今年の流行色を口元などに適用している

中央(自宅)に映った女性の背景をぼかしている状態。子どもなど家族の写真が映り込まないようにしている

TeleBeautyについては2016年9月から11月の3カ月間、日本マイクロソフトの女性社員100名が試験運用を実施し、前述した「働き方の改革週間 2016」を通じて「賛同企業に対しても積極的に提案を行う(織田氏)」という。なお、試験運用終了後の展開は現時点で未定だが、「デジタル上で『自身の美しさ』を再確認し、化粧の興味関心を向上させる。また新た強い色や美容方法へのチャレンジに誘い、(資生堂としては)Skype for Business以外のオンライン会議でも使えるようにするなど、利用者に役立つ最適な展開方法を検討する(片岡氏)」と述べている。

阿久津良和(Cactus)