東北大学、東京大学、東京工業大学などによる研究グループは8月22日、これまで超伝導を示さないと考えられていたビスマス層状酸化物の超伝導体を発見したと発表した。

同成果は、東北大学大学院理学研究科の福村知昭 教授、清良輔大学院生(東北大学大学院理学研究科、東京大学大学院理学系研究科)、東京大学大学院理学系研究科化学専攻の長谷川哲也 教授、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の川路均 教授らによるもので、詳細は8月19日(英国時間または米国東部時間)付けの米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に掲載された。

熱電材料やトポロジカル絶縁体として研究されてきたビスマス化合物は、高温超伝導を示す鉄系化合物と類似した結晶構造を持つものがあることから、超伝導体の探索が行われてきた。これまでにも単原子の厚さのビスマス正方格子とブロック層の積層構造をした層状化合物にて、超伝導が報告されてきたが、不純物析出相の超伝導の可能性もあり、ビスマス正方格子が超伝導状態になっている証拠は確認されていなかった。

今回の研究対象となったビスマス層状化合物「Y2O2Bi」についても、超伝導体ではない、という見解がなされていたが、研究として酸素をより過剰になる組成で合成した結果、ゼロ抵抗と完全反磁性を示す超伝導の観測に成功したという。

また、分析の結果、積層されているビスマス単原子シートの間に酸素が入り込むことで、その距離を拡げることで、超伝導が発現する機構になったと考えられるという。

研究グループでは、今回のような層状化合物の結晶構造の隙間に原子を挿入して結晶の単位長を精密に調節するという手法は、従来の超伝導体化のための化学手法とは異なっており、こうした手法を活用していくことで、ビスマス化合物以外にも新たな超伝導体が見つかる可能性があるとしている。また、ビスマス化合物は、量子コンピュータへの活用も期待されるトポロジカル超伝導体化も試みられているが、今回の総状化合物は、新たなタイプのビスマス化合物超伝導体であるため、特異な超伝導状態を有しているかどうかについて、今後、調べていく必要があるともコメントしている。

さまざまな層状化合物における、c軸方向の結晶の伸び率に対する超伝導転移温度の変化率。他の化合物に比べて、Y2O2Biは小さな結晶の伸び率で大きな超伝導転移温度の変化率を示した。図中の挿入図は結晶の伸び率の小さい領域の拡大図 (出所:東北大学 Webサイト)

Y2O2Biの超伝導発現機構の予測図。酸素がビスマスの単原子シートとY0ブロック層の間に入り、c軸方向に結晶が伸びることで、超伝導が発現すると考えられる (出所:東北大学 Webサイト)