Appleはアクセシビリティ分野への取り組みを強化してきた。例えばiPhoneやiPadなど、手触りがなく視覚で確認する必要があるタッチスクリーンデバイスを、音声を駆使して利用できるようにする機能をiOSに標準搭載している。

6月に開催されたWWDC 16で、優れたアプリを表彰するApple Design Awardでは、高校生の頃に視力を失ったというDJがiPadとDJアプリ「djay Pro」を利用して華麗なプレイを披露し喝采を浴びていた。このことは、Appleのデバイスとアプリの組み合わせによって、健常者と同じようにあらゆる人々が生産性や創造性を拡げられることを端的に示している。

米国で生活をしていて感じるのは、思考の面でも街やデバイスの面でも、「ユニバーサルデザイン」を極力実現しようとしている点だ。それは、体の不自由な人を特別扱いしなくても、他の人と同じように生活ができる環境を作り上げることだ。

確かに画期的なデバイスで、不可能を可能にする例はいくつもある。義足や義手は、非常に価値のある発明だ。他方では、1つのデバイスがあらゆる人にとって便利に利用できることを追求する考え方がある。Appleは後者を追い求めている企業なのだ。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura