米国でのプレゼンス

「米国でのプレゼンス向上が目的」と出澤代表

その理由について、上場記者会見に臨んだ出澤剛社長は「世界のユーザーにLINEを知ってもらう。その決意の表れ。プレゼンス(存在感)を上げるのが重要だと思っている」と話す。

プレゼンスの向上が目的――。これは納得できそうで、理解できない回答だ。米国での存在感向上と直近のLINEの戦略を結びつけることはできないからだ。LINEは主要4カ国(日本、台湾、タイ、インドネシア)へのユーザー獲得とマネタイズ化を進めており、中期的に見ても、米国への進出については何も明言していない。

その点について出澤氏は次のように説明する。「アジアはグローバルで熱い視線を浴びている。特にインドネシアはどの会社もフォーカスしている国だ。USマーケットでも様々な情報が流通している。そして、今後の投資先はアジアだけではない。データやAI技術を考えた場合に世界中の会社がパートナーになる。その点において、最先端の米国で接することは重要だ。さらに我々の競合はITジャイアントのフェイスブックやグーグル。こうした会社と同じ競争環境のなかで戦っていくことは重要だと思っている」(出澤氏)。

同氏の発言で重要なのは、後者の技術に関する下りだろう。メッセンジャーアプリはこれまで人と人のコミュニケーションツールに過ぎなかった。それが、今や最先端技術を取り込み、あらゆるサービスを展開しようとしているからだ。LINE自身、これまで人と人を結びつけるコミュニケーションツールの提供を行ってきたが、今では、人と人だけではなく人とモノをつなげる「Closing the distance」という標語を掲げているくらいだ。

メッセンジャーアプリのトレンド

人とモノを結びつけるメッセンジャー。それが今後のトレンドになっていく。メッセンジャーアプリは多くの人が日々、接する存在であり、スマートフォンにおけるポータル的存在になりうるものだ。メッセンジャーがポータルになるならば、そこでユーザーの望みを解決してあげたらいい。そこにビジネスの種があるわけで、フェイスブックも同じことを考えている。

そうしたユーザーの願望を高精度で解決しうるのがAIである。AIを取り込むことで、データをもとにしてピンポイントの回答、ピンポイントの広告やサービスの提示が期待できる。天気や気温といった情報を取得したり、個人の趣味嗜好にあった商品の販売やサービスを提供したりすることを目指している。

フェイスブックの開発者会議ではメッセンジャーアプリでの買い物支援について言及された

今やメッセンジャーアプリとAIは切り離すことはできない。それはLINEも同じである。こうした流れからすれば、出澤氏が「データやAI技術を考えた場合に世界中の会社がパートナー」になるとコメントしているように、米国の上場はAI分野における事業提携や企業買収なども十分にあることを示す強いメッセージと捉えてよさそうだ。