アップルの開発者会議「WWDC16」が間もなく開幕する。WWDC(Worldwide Developers Conference)は、アプリの開発者や技術者に向け、例年6月に実施されている。世界中の開発者がサンフランシスコに集まるのだが、その中には、スカラシップ(奨学金制度)を利用して来場する学生や開発者も多い。

「WWDC16」のスカラシップ制度

WWDCにおいて、アップルが実施しているスカラシップは、世界各国の学生を対象に同イベントのチケット代金を無償で提供するというものだ。昨年6月に開催され た「WWDC16」では350人分のスカラシップ枠が用意されていた。

応募資格は13歳以上で、学生であれば、パートタイムでも可。13歳以上のSTEM(科学技術教育)団体メンバー、あるいは卒業生も応募できる。

今年何人の枠があったのかは明らかにされていないが、スカラシップのフォーラムによれば、記録的な数字となっているそうだ。とはいえ、13歳以上の学生なら誰でも入れるというわけではなく、ちゃんとしたスキルがなければならない。自分で作ったアプリを提出して、審査を通って、初めて参加できるというわけだ。世界中から応募があって、その中から選出されるのも大変なことだが、今年、日本から近畿大学経営学部3回生の山田良治(やまだ・よしはる)さんが枠を勝ち取ったという話を耳にしたので、早速、話を伺いに行った。

近畿大学経営学部3回生の山田良治(やまだ・よしはる)さん

――山田さんは、前述の通り、近畿大学経営学部の3回生。近畿大学というと、附属高等学校・中学校が昨年、アップルのエコシステムを導入し、模範的な学習環境のビジョンを体現する学校を選定するプログラム"Apple Distinguished Program"に選ばれているわけだが

山田さん 僕は、附属からではないです(笑)。高校は京都の高校を卒業してます。経営学部でプログラミングをしているというわけではなくて、ITコースでプログラミングの講義も一応受講しているのですけど、大学1年生のときに「自分の会社を持ちたい、起業したいな」と思いまして。でも、お金がないから「自分で作ってやろう」って考えに至ったんです。アプリ作って売れれば資金できるじゃないですか、だからiOSの開発をしようと思って。で、学生ローンで12回払いでMacBook Airを買って、始めました。

――プログラミングに興味を持ったのは何時くらいの話なのだろう。

山田さん ちょうど大学1年生の5月くらいです。19歳になりたての時くらいですかね。

――てっきり、高校生の時分からスタートしているものと思ったら、これは意外な答えだった。「全ッく知らなかったです!」と山田さんは苦笑まじりに打ち明ける。ちなみに、最初はObjective-Cから入ったそうだ。その時は未だ、Swiftは出たてだったらしい。現在はSwiftを利用しているとのことだが、移行については「まあ大変でしたけど頑張りました!」とまた苦笑まじりに答えてくれた。インターネットで、どの本がいいかの、お勧め評価が一番高いのを買って、それをひたすらやって、終わったら次のまた新しいのを買ってやってというのを繰り返してたと山田さん。なんと、習得は全部自分で独学、とのことだ。凄い、と思う一方で、もしかしたら、実はSwift簡単なんじゃないかという気もしてきたが。

山田さん 初めから難しいの作ろうとせずに、簡単な計算機みたいなアプリをApp Storeに申請してみたりとか段階をいくつか踏んできました。今、販売しているのは3つあって、ひとつは本命でふたつは遊びみたいなもんなんですけど(笑)。僕、麻雀やるんですけど、点数がみんなすごい分かりにくいかなと感じていて、例えば、4翻30符の親の計算やったら、もう満貫、とか、1タップだけでほぼ点数を考えなくていいというのがあったら便利やなと思って作りました。これの4人麻雀編というのもあって、これらが遊びみたいな二つです。遊びで作った割に好評で、月100DLはありますよ。今までで1,000DLは超えてます。

――なるほど、いきなりハードル上げないで、基礎的な体力をつけていくことが重要なのかもしれない。それと、自分が好きなことと結びつけたことも功を奏したのだろう。好きなことだから、上手くやれる。気になる、本命のアプリはどんなものなのだろうか。

山田さん 「SchooLife」というアプリです。月曜から金曜まで、よりよく学校のことを管理できるものはないかな、と思いまして、例えば、これ(と言って画面を見せる)授業一覧ですけど、学生が一番欲しいものは何かって言うと、頭の中で考えているのは、休んだ時に「あと何回でオレはアウトなんだろう?」っていう。それを悪い意味にとられずに、残り欠席数順にキレイに並べる機能もあります。以前は「欠席管理アプリ」って名前でやってましたね。でも、このままどんだけ深掘りしていっても底は見えているなと思って、だったら、学校のこと全部、学生の目線から見て、学校側からだけではカヴァーしきれてへん、こぼしてることがぎょうさんあるので、それを僕が学生の目線でカヴァーするアプリをつくろう、ということで取り組みました。例えば、イベントの管理とか、日付順に出したりとか。今、改装中ですが、単位管理する画面作ったりもしてます。

――この3本のアプリを作ったという実績を評価されて、今回、スカラシップ選出と相成ったわけだ。そもそも、どうして応募してみようと思ったのだろう?

山田さん 2回生までアプリをずっと一人で開発していて、「このままじゃオレ、アカンな」って思いまして。成長の壁みたいなのがあって、3回生からは外に出て気持ちを外に向けようと思っていたらこの申込みのメールが来たので、なんやろ、"神様からの采配"みたいな感じで「これしかない」と思い、応募しました。

――スカラシップの応募は、これが初めてだとのこと。申し込みの書類は英語での記入が必須だが、帰国子女だったりするのだろうか。

山田さん 決定通知が来てから勉強始めました。そんな難しい会話はできないけど、コミュニケーションは取れると思います。知り合いにオンライン使った英語学習の学校やってる人がいて、「稽古付けてください!」と。お金払いましたけど。あとは、近畿大学英語村E3[e-cube]というのがあって、ネイティブが5人~10人常駐していて、そこでは英語しか喋っちゃダメという場所があるので、毎日学校がある時に行って、15分から20分おしゃべりするという。アプライの書類は自分で努力しても、向こうの常識を知らないのでどうにもならないと思い、ネイティブの先生にSkypeのIDを聞いて「添削してください、お願いします」と頼み込んで出しました。

――努力家にして野心家という印象を受ける。本人も「オレが一番ガツガツいったるぞと思っていますよ」と気合いが入ったところを見せてくれた。実のところ、山田さん自身は内向的だったのだが、「このまま生きてたらアカンな」と思うことがあって、そこから外に気持ちが向いたそうだ。

山田さん 高校一年生の時に行ってたアルバイトがあるんですが、まわりに全然やってないような人もいて、それで給料同じって、納得いかなかったんですよ。「がんばっても報われへんかったら、なんでがんばってるんだろう」と。それで、バイトが嫌いになり、「自分でやるしかない」と思って勉強頑張ってみたり。

――経験が人を変えていったということか。WWDCという世界中から開発者が集まるイベントに参加することで、また一皮剥けることだろう。参加するにあたって、期待していることを訊いてみた。

山田さん キーノートは楽しみですね。それからアップルの現地の開発の人にコンサルしてもらえるというのがあるので、それはすごく楽しみにしています。あとは、現地の交流です。どれだけ色んな人と逢えて、どれだけ自分の皮が捲れるというか、次が見えてくるか楽しみにしています。でも、「楽しみたい」というのが一番です!

――と、笑顔で答えてくれた。あわせて、WWDCのスカラシップ制度をどう評価しているか訊いてみると……。

山田さん すごいと思います。なんかもう、遠い世界の話じゃないですか。普通に。国も越えて。しかも参加料を普通に払ろうたら15万円しますし、学生って、バイトもしてますけどそんなにお金持ってないので、自分が到底行けると思ってないところに、全部出してくれて、「アップル凄いなあ」って。ははは。

***

WWDC 2016は6月13日(日本時間14日)にキーノートで幕を開ける。今回はiOS、Mac OSに、Apple Watch向けのwatchOS、Apple TV用のtvOSの新バージョンなどの発表が予想されている。Swiftも、もしかしたら新しいバージョンがアナウンスされるかもしれない。基調講演の様子はライブ中継される予定で、iPhone/iPadなどのiOS 7.0以降を搭載したiOSデバイス、OS X v10.8.5以降を搭載したMacのSafari(バージョン6.0.5以降)、software 6.2以降がインストールされた第2/第3世代のApple TVおよび、第4世代Apple TV、さらに、Windows 10を搭載したPCのMicrosoft Edgeで視聴が可能だ。

すでに山田さんはサンフランシスコ入りしているようだが、情報によれば、コミュニケーションに少し困っている様子だ。だが、集まってくる人たちは、皆、開発者であったり技術者であったりする、アップルのテクノロジーに興味のある人だ。Swiftをはじめ、彼らならではの共通の言語を使ってコミュニケーションするのだから、そこは楽々と乗り越えていくのではないだろうか。

今後の活躍がますます楽しみな山田さんだが、マイナビニュースでは、帰国してからすぐのインタビューの約束を取り付けた。どれくらい「楽しんで」帰ってくるのか土産話を楽しみに待ちたい。