九州大学(九大)は6月3日、線虫を用いて動物の行動が性的成熟期に変化する仕組みを明らかにしたと発表した。

同成果は、九州大学大学院 理学研究院 藤原学助教、石原健教授らの研究グループによるもので、6月2日付けの米国科学誌「Current Biology」に掲載された。

多くの動物は成長段階に応じて行動パターンを変化させることが知られているが、そのような行動変化の制御機構はほとんどわかっていない。同研究グループは今回、線虫「C.エレガンス」を用いた解析から、子どもの線虫と大人の線虫では匂いの好みに違いがあることを明らかにした。

線虫は卵からふ化後、大人になるまでの間に生殖細胞が増殖して性的な成熟が起こるが、生殖細胞の増殖を人為的に止めて生殖細胞を持たない大人の線虫を作製すると、匂いの好みが子どものときのままになることがわかった。また生殖細胞を持たない線虫では、匂いを感じるのに働く神経回路中の特定の神経細胞の反応が弱くなっていたという。したがって、生殖細胞が増殖すると、嗅覚の神経回路の反応が調節され、匂いの好みが変わると考えられる。また、この制御にはストレス耐性などにも働く転写因子「DAF-16/FOXO」が関わっていることも示されている。

同研究グループは、今回の解析について、将来、思春期特有の心の変化など人の心でも起きている現象が説明できる可能性があると説明している。

線虫 C.エレガンスは、302個の神経細胞からなる神経回路の構造がすべて明らかにされているモデル生物。行動実験と神経活動の測定を組み合わせた解析から、線虫の神経回路が生殖腺の成熟という体内の状況を反映して調節を受け、その結果、行動変化が引き起こされることがわかった