5月11日~13日にかけて、東京ビッグサイトで計12のIT専門展から成る「2016 Japan IT WEEK 春」が開催された。本稿では、グーグル Google for Work 日本代表を務める阿部伸一氏が行った特別講演「人工知能(AI)時代に対応した、新しいビジネスを生み出すクラウドの活かし方」の内容をお届けしよう。

グーグル Google for Work 日本代表 阿部伸一氏

Googleの人工知能を支える高度な要素技術とは?

阿部氏は冒頭で「Googleが手がける人工知能には、人間の脳内にある神経回路の仕組みをシミュレートした『ニューラルネットワーク』が用いられている。これを支えているのが、Googleならではの高度な要素技術」と語った。

この要素技術としては、まず圧倒的なコンピューティングパワーが挙げられる。Googleでは、全世界で1日当たり30億回以上もの検索を支え続けている処理能力に加え、必要なデータを蓄えておく膨大な容量のストレージを保有。またアルゴリズムの面でも、常にソフトウェアの改良を重ねることで、より高水準なものを目指している。

もう1つ、ニューラルネットワークを用いる上で重要なポイントがネットワークだ。Googleは並列計算に必須となるサーバ間のネットワーク高速化に多額の投資をしているだけでなく、世界中のデータセンターを専用ネットワークで接続するなど、高速かつ安全なデータ通信環境を構築しているのである。

Googleでは、これらの要素技術を有機的に組み合わせたものを「データセンター as a コンピュータ」と呼んでいるという。多数のサーバから構成されるデータセンター自体が、ソフトウェアによって1台の大きなコンピュータとなるイメージだ。可用性にも優れており、その中の数台が故障してもデータが消失したり、サービスが止まったりするようなことはない。

さらに人工知能を開発する上では、膨大なデータ処理で人間に近い学習モデルを作る必要があるため、「Google Cloud Platform」が持つ規模とスピードも極めて重要になる。

Googleの人工知能と言えば、2015年10月に人間のプロ囲碁棋士を破った「Alpha Go」が記憶に新しい。阿部氏はこのAlpha Goについて「まず囲碁という競技自体が非常に複雑。この複雑性を数で例えると、チェスが人体を構成する原子の数とした場合、囲碁は全宇宙にある原子の数に相当する。課題の規模や複雑性が大きく異なるため、従来のような総当たりのアルゴリズムではなく、ニューラルネットワークを使った解決が求められる」と語った。

方針転換で社内向けソリューションも一般提供

Googleは、すでに人工知能を用いたコンシューマ向けサービスを複数提供している。例えば、容量無制限に加えて整理不要で手軽に検索できる写真共有・フォトストレージサービス「Googleフォト」、膨大なデータを基に翻訳エンジンをニューラルネットワークで学習させ、今ではリアルタイムな翻訳も可能になった翻訳サービス「Google翻訳」などが代表例だ。

一方でインターネットの普及により、近年はビジネスにおいても複雑な問題への対処・解決を求められるケースが増えてきた。こうした状況を受け、阿部氏は「人工知能は複雑化したビジネス分野でも、人間の非常に優れたアシスタントになると考えている。そこでGoogleは、ここ数年で大きな方針転換を行ってきた。それは、GmailやGoogleマップに加えて、これまで社内向けに限定していたサービスも、皆さんが使いやすいような形で提供するというもの」と語った。Googleのインフラが持つ可能性をビジネスの場で活用できる企業向けソリューション「Google for Work」が最たる例だろう。

デジタル化する「マーケットプレイス」と「ワークプレイス」

さらに、阿部氏は「ビジネスのやり方に応じて、デジタルの在り方が変化してきたのも近年の特徴。こうしたビジネスのデジタル化は、大きく『デジタルマーケットプレイス』と『デジタルワークプレイス』に分類できる」と語る。

まず、デジタルの商品やビジネスモデルを作る、あるいは市場のデジタル化に相当するのがデジタルマーケットプレイスだ。ただし、単純にツールを使うだけであったり、既成概念にとらわれたりしていると新しいデジタルマーケットプレイスは作れない。求められるのは働き方やマインドセットの変革であり、こうした点を含めてデジタルワークプレイスの構築が必要になるという。

そこでGoogleでは、デジタルマーケットプレイスとして「Google Cloud Platform」を提供し、企業がマシンラーニングやディープラーニング、各種エンジン/フレームワークなどを活用できるようにしているそうだ。

デジタルワークプレイスに関しては、コラボレーションツール「Google Apps」が重要な役割を担っており、阿部氏は「最近はクラウド化されたコラボレーションツールやオフィスツールが当たり前になってきたが、Google Appsは当初からデータを"保存する"だけでなく"生かす"ことを目的にしている」と語る。

データを生かす上でポイントとなるのが検索だ。データはためるほど価値が出るが、管理能力を超えるとそれは無用の長物になってしまう。そこでGoogleは得意の検索技術を用いて、データ活用に最適な基盤を提供しているのだ。

さらにGoogleでは、これまでどうしてもボトルネックとなっていた容量の制限をも撤廃した。より多くの情報を活用し、人工知能を教育する人間がもっとクリエイティブなアイデアを出せるよう、Google Appsの上位版としてリリースしたのが「Google Apps Unlimited」だ。

こうしてGoogleの各種サービスを解説した阿部氏は、最後に「クラウド上で大容量のデータをいかに効率良く整理・検索し、思いついたアイデアをタイムリーに共有できるよう、Googleでは今後もインテリジェントなサービスを作り続けていきます。コンシューマはもちろん、働くすべての人が"Happy"になり、仕事にやりがいを感じられる、それがGoogleの目指す世界」と語り、講演を締めくくった。