ソフトバンク サービスプラットフォーム戦略・開発本部 担当部長 近藤 正充氏

――プラススタイルとはどういうプラットフォームなのでしょうか。

近藤氏 「プラススタイル」はソフトバンクの"ものづくり"支援の総称です。IoTになるであろう商品の企画している企業やプロトタイプ作っている企業、個人と、そのプロダクトを「欲しい」と思ってる人をつなぐプラットフォームです。「プランニング」「クラウドファウンディング」「ショッピング」という機能を用意していまして……全部、「グ」で韻を踏んでいますね(笑)。

プランニングやアイデア、ハードウェア製品はあるんだけど、それとネットワークをつなげるアプリケーションをどう作ろうかと考えている人たち、そういう人たちに対して、ガジェットが好きな方や、意見を言いたい方が、出てきたモノに対してコメントすることで、より具体的な商品の理想へとつなげられればと思っています。

商品を作り上げる過程で「資金が足りない」ということであれば、「クラウドファウンディング」を利用することもできます。そのままローンチしたいなら、ショッピングといった選択で、メーカー自身の希望によってその辺りは判断していただければと。

ただ、クラウドファウンディングであれば、ユーザーは募集期間中にプロダクトへ意見を言えますし、メーカーとしてもユーザーの意見を取り入れて、より良いものに中身を変えられるメリットがあります。商品をお客さまにへ届けたあとにフィードバックの仕組みも用意しますし、Webだけの売れ行きや声だけでなく、ソフトバンクショップというチャネルを持つ"ソフトバンクならでは"も打ち出せればと思います。

――どのような経緯でプラットフォームの構想に至ったのでしょうか。

近藤氏 元々、私は(ソフトバンクの)シリコンバレーオフィスにいたんです。シリコンバレーでは、数多くの"モノ"が生まれる瞬間を見てきました。当然その中にもクラウドファウンディングの機能があり、大手サイトと呼べる規模のものが数多くあり、実際にその場で商品を購入して、体験してきました。

1年前に日本へ戻ってきて、「生まれ出る瞬間のサービス・機能があれば良いな」と考えたんです。もちろん、さまざまなクラウドファンディング・プラットフォームがありますが、その中でも"ソフトバンクグループ"はそうした取り組みに最適な会社だと考えたんです。スマートフォンを含む商品企画を、多くのメーカーと共にやってきていますし、流通専門会社や決済サービスなども包含しています。それだけ、メーカーを横からサポートできる環境にあるんです。

もちろん、私たちだけではサポートしきれない部分もあるため、約30社からなる「ものづくりサポーターズ」を結成して、企業や商品に対する投資、チップセットの購買ルートの確保、プロトタイプ開発、最終的なマーケティングなどを支援していただきます。発表会以降にもさまざまなお問い合わせをいただくなど、反響は非常に大きいですね。

――近年は日本でもスタートアップ文化が根付きつつあると思います。ただ、サービスプラットフォームなどのソフトウェアベンチャーは多いものの、ハードウェアベンチャーはあまり出てきていないように感じますが、どこに障壁があるのでしょうか。

近藤氏 障壁はいくつか存在すると思っています。会社規模や注力するポイントによりさまざまですが、例えばセンシング関連のハードウェア開発者は、量産前のプロトタイプを作るためのチップは手に入ります。だけど、量産する時に作りこんだものと同等のものを提供する、となると、そのための資材を確保できないんです。そうした課題解決のために、プラススタイルではサポーターズが上流から入っているので、サポートできるように努力しています。

そして、ハードウェアベンダーは"モノ"にとかく注力しがちだなと現状を見ていて思います。Webサイトを作って、動画も作って、プロモーションをかけることも大事な要素なのに、疎かにしがちなんです。この部分は、さまざまな企業が入っているサポーターが、それぞれ違う考え方を持っているからこそ、トータルにサポートできると考えています。足りないところをサポーターズで埋めていって「勝負ができる」、そういう形にしたいんです。

単なる"モノ"を作るだけではない1つの例。このクラウドファンディングはプロが選んだ配合のコーヒーを楽しめる。製品を売って終わりではなく、「プロのコーヒーの作り方」をアプリの活用によって再現し、ユーザー体験として提供するところが、製品販売では終わらないプラススタイルの代表例と言えるかもしれない

ただ、アメリカで見てきたクラウドファンディングの課題もあります。

とあるサクセスしたクラウドファウンディングがあったんですが、「量産化できませんでした」となってクローズしたんですよ。また、プロモーションビデオはがんばったけど、実際に出来上がったモノは「全然違う」というケースもありました。そういう事案が続けば、プラットフォームに対して「負のイメージ」がついてしまう。極端な話で言えば、「燃えた」「故障した」が頻発しては、ユーザーさまにも迷惑がかかります。

なので、まずはそういうことがないように、スケッチを披露したものと同じもの、コンセプトのもと同じものを重視して商品選定を行っていきます。ゆくゆくは個人のアイデアも商品化したいのですが、まずは「しっかり実現できるところ」という考えで、企業の商品をラインナップに据えています。

ちなみに、クラウドファンディングに掲載しているものは、商品を作ること決まってから、すみやかに配送できるもの、というのも基準の1つですね。半年以内には商品発送を行うという大まかな基準がなければ、お客さまの手元に届いて「これ、なんだっけ」となってしまう。そうなると、次の展開が難しくなってしまいますよね。なので、半年以内のお届けは重要かなと。

――ユーザーが言いたい放題だと、提供側もなかなか大変かと思いますが。

プラットフォームに寄せられる意見は「良いコメントばかりではない」と語る近藤氏

近藤氏 私は、コンセプトそのものを否定してもらっても良いと思ってるんです。その場で盛り上がってもらって、消費者の目線が大事だと思ってるんで。良いコメントだけ、ヨイショするコメントばかりじゃないですよと提供側には伝えています。ただ、誤解してほしくないのは、メーカーが「すべてを真に受けるわけではない」ということです。メーカーとわれわれで「ここは改善しないとね」と協議して、対応して、そして次へつなげていきたいと考えています。

――プラススタイルに載ってくる商品の傾向などはどのように考えていらっしゃいますか。

近藤氏 全体感としてですが、IoTの商品って「インターネットにつながる商品」ですよね。それで便利になるモノって、決してガジェット系だけじゃなくて、洋服なども将来的に入ってくると思うんです。

もちろん、現状で衣服メーカーさんもさまざまな取り組みを行われていると思うんですけど、お客さまに届くものはまだまだ出てきてないのが実情です。プランニングからクラウドファンディング、ショッピングまで一気通貫したプラットフォームだからこそ、ユーザーと共に、新しい商品を作っていけると思うんですよね。

その話にも共通するんですが、純粋な電機系メーカーではない方たちと、もっと仕事をしていきたいと思ってるんです。そうすることで、広がりが出るし、見えてくるデータも増えてると思います。

――どういったプラットフォームへと成長させていきたいですか?

近藤氏 先ほどのほかの業界と仕事をしたいという意味では、衣服のブランドメーカーに足りない機能をサポートし、IoTジャケットやIoTシューズが出てくることでプラットフォームが楽しくなると思うんですよ。当初はガジェット好きが中心だと思いますが、衣服、シューズメーカーなど、ブランドファンの方が来るプラットフォームになれば、多様性が生まれる。楽しいですよね。新しいステップや、化学反応が上手く起きれば良いなと思っています。

商品"群"が大事で、ガジェット好きな方に加えて、そうではない人たちにも来ていただく。ガジェット好きな方に継続して来ていただいて、可能性を広げることが大事だよなと。自分たちが動かないと、声を出していかないと商品が変わらない。逆に言えば、声を出せば商品が自分たちに近づいてくる。自分たちの声で、欲しいものを、「良い意見」「物申したい意見」あわせて伝えてもらえれば、次へとつながっていきます。

現在は企業のアイデア、商品のクラウドファンディングしか提供していませんが、個人でアイデアを温めている方は、今しばらくお待ちしていただければ、そう遠くないうちに、ご一緒に商品を作っていけると思います。作ったあとは収益化で、この部分はモチベーションにつながる部分でもあるので、しっかりやっていきたいと思っています。

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