世界遺産ならぬ日本遺産

日本遺産。そんな名前を聞いたことがあるだろうか。国宝や重要文化財とはどうちがうのか。世界遺産のマネではないだろうか。そんな声が出てくるかもしれない。

しかし、政府が何年も構想を練って始まった観光戦略の目玉の一つなのだ。どんなものかというと、イメージとしては世界遺産に近い。文化庁ホームページによると「地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリー」と説明されている。要するに、遺跡や古墳といった1つ、1つの「点」になっていたものを、関係する建物や伝統芸能、絵画などをひとつのストーリーとしてパッケージ化し、認定するというものだ。

後藤織物 群馬県桐生市 写真提供:群馬県(左)。永井いと肖像画(右)

たとえば、群馬県では、桐生市など4市町村にまたがる絹産業の歴史とそれに従事した女性の活躍を物語る場所や資料を「かかあ天下-ぐんまの絹物語-」として日本遺産に応募し、認定されている。初年度である昨年は83件の応募に対し、18件の認定。世界遺産と比べるとハードルは格段に下がるため、地元の観光活性化に歴史的な資源を活用したいという自治体などにとっては非常に魅力的だ。日本遺産に認定されると、政府から普及啓発などにかかる費用が補助される。予算については、昨年度はこの事業全体で8億700万円、今年は12億7500万円。昨年度認定されたものの中には、世界遺産登録をめざしている奈良県明日香村の遺産なども入っていて、世界遺産の前に日本遺産の認定を、という機運が自治体の中には生まれている。

日本遺産の可能性

世界遺産が観光業などにもたらす経済効果は莫大で、人口減少が深刻な地方にとって、非常に魅力的である一方以前にも述べた通り(長崎“教会群”からみる世界遺産登録のハードルの高さ【前編】長崎“教会群”からみる世界遺産登録のハードルの高さ【後編】)、世界遺産登録のハードルはどんどん高くなっている。だからこそ、世界遺産に代わる魅力的な観光商品として日本遺産は、新しい可能性がある。一番の課題は、まだまだ認知度が低いというところだが、世界遺産も認知されるようになるのに何年もかかったのだから、自治体、関係企業の努力、国の後押しに期待するしかない。東京五輪に向け世界から日本が注目されており、さらに訪日外国人が右肩上がりの今がその好機であることは間違いない。

今年の日本遺産の発表はゴールデンウィーク前

政府としても、東京五輪が開催される2020年までに100件の認定を目標にしている日本遺産。この機運にうまくははまることでの地方の観光業の持続的な成長を目指している。そんな日本遺産だが、文化庁が申請件数を発表していないものの、今年の申請件数は報道では70から80件と昨年並みの数字が出ている。発表は、ゴールデンウィークでの観光客の増加を狙って今月中になる。