大学スポーツを産業化する動きが日本でも出始めた。先行するのは早稲田大学との組織的連携を決めたアシックスだ。米国では莫大なマネーを生み出すという大学スポーツだが、日本でビジネスとして成り立つ可能性はあるのだろうか。
米国ではプロに匹敵する人気の大学スポーツ
「大学スポーツが一大産業となるよう、まずは2者でやっていく」。アシックス代表取締役社長CEOの尾山基氏は、早稲田大学との協定締結に際して決意を表明した。ビジネスモデルに関する具体的な方向性は今後の検討課題となっているようだが、尾山氏はNCAA(全米大学体育協会)が主催するカレッジスポーツの盛況ぶりを引き合いに出しつつ、日本の大学スポーツにビジネスとしての大きな可能性を感じると語った。「米国のカレッジスポーツは、地域住民が観戦に訪れるなどプロスポーツに匹敵する人気と収入がある。スポーツが人々の身近にある環境を生み出すことに一役買っており、スポーツ大国の土台となっている」というのが尾山氏の認識だ。
NCAAは1,000を超える加盟校を抱える大規模な組織。管轄する競技はメジャーからマイナーまで幅広い。バスケットボールやアメリカンフットボールといった種目はプロへの登竜門となっており、未来のスーパースターを探すファンの熱量も高いという。
NCAAは大会の運営などを担い、収益の大部分をバスケットボールのテレビ放映権などで稼ぎ出す。稼いだ資金は自身の運営費に充てるほか、加盟大学のスポーツ振興や奨学金などに振り分ける。NCAAは大学スポーツが生み出す巨額の収益を一元的に管理し、加盟大学に分配する役割を果たしているわけだ。
大学スポーツで稼ぐという発想は日本で浸透するか
では、日本における大学スポーツはどうだろうか。箱根駅伝や六大学野球など、一部には人気を集めている競技も見受けられるが、米国と比べると、どうしても盛り上がりに欠けているように感じてしまう。大学スポーツ全体を一元的に管理する組織はなく、競技ごとに存在している連盟や協会などは、そもそも大学スポーツで稼ぐという目的で活動していないのが現状だ。
日本では大学スポーツを教育の一環と捉えていたため、そこで稼ぐという考え方は浸透しなかった。早稲田大学のスポーツ科学学術院でスポーツ政策論などを教える間野義之教授は、「日本では、選手(学生)が一生懸命やっているところで稼いだり儲けたりするのは『悪』だとする風潮が強い」と指摘する。しかし、その風潮に変化の兆しが見られるというのが間野教授の見立てだ。