世界最大級とされる学校向けSNS「Edmodo(エドモド)」が4月より日本語で提供される。これにあわせ、KDDIとZ会・栄光グループは、当初よりサービスに組み込んだタブレット端末を学校に教育ソリューションとして提供していく。

2月25日には日本大学三島高等学校への納入を発表。タブレットはiPad Air 2で、KDDIからのレンタルとして3年契約で提供する。レンタルには「レンタル安心オプション」として、保険契約も付随しており、生徒が破損した場合でも低コストでの端末交換が可能となる。一方で、Z会・栄光グループは、学校教育の現場でEdmodoの活用支援を行う。Edmodoを通じた教材コンテンツの提供や、日本へのEdmodoの最適化を進めていく。

この発表に先立ち両社は、2月中旬に学校関係者向けの教育ソリューション説明会を開催した。説明会では、前述のEdmodoの国内活用だけでなく、昨年夏に両社が発表したZ会の「StudyLinkZ」とKDDIの学校向け通信環境整備などの具体的な説明が個別セッション、ブースで行われた。

KDDIがタブレットなどのハード面を、Z会がコンテンツなどのソフト面を提供する

リッチコンテンツをタブレットでひとまとめに

StudyLinkZは、Z会ラーニング・テクノロジが次世代型学習支援サービスと位置付けた学校教育のICT化を進めるプラットフォームで、いわゆる"Z会"の一般的な通信教育のイメージとは異なるソリューションとなる。説明員によると、教育現場のICT化が叫ばれる一方で、教科書会社が作っているコンテンツと、いわゆるeラーニングには隔たりがあり、そのギャップを埋めるにはZ会のようなポジションの企業がうまくマッチするのだという。

eラーニングの場合は、4択の設問などを通して、体系的な学習ではない学習の流れがあるのに対し、教科書ベースでは、まず体系的に知識を得るため、勉強へのアプローチが異なる。つまり、学校教育機関向けプラットフォームでは、教科書ベースで先生が教えることを前提としたコンテンツ作りが必要不可欠となる。そこでStudyLinkZは、そのポイントを押さえつつも、通信教育に近いeラーニングの要素も交えたプラットフォームへと昇華させている。

ブースのデモンストレーションでは、Z会が私立高校などに提供しているハイレベルの英語教科書「NEW TREASURE」を使った模擬が行われた。学校導入ではコスト低減のためにPDFで取り込んだ教科書を活用したICT教育もあるとされるが、StudyLinkZでは"真の意味でのICT化"を図るため、リフロー型のePub形式を採用している。

StudyLinkZ

授業の過程で読む部分を大きくしたり、音声や動画を用いたマルチメディア化を図ることで、学生に興味を持たせつつ、勉学に前向きに取り組める下地を作った。特に音声や動画は、かつてCDなどを用いて授業をしていたため、先生がCDを用意して教室全体で音声再生を行う必要があり、手間と無駄が発生していたが、タブレットで生徒自身が好きなように音声や動画を再生できるため、授業中はもとより、自宅学習でも大いに活用できる。音声は、ポーズよみやハイスピード再生、カラオケモードなど、学習状況にあわせたものが選べるため、アダプティブラーニングの応用としても有効といえる。

動画や音声を電子教科書上で直感的に呼び出せる。また、虫食い問題をその場で作ることも可能だ

また、かつてのPCを使っていたICT教育の時代と違い、タブレット端末のStudyLinkZではペンツールを使った書き込みも可能となる。書き込めることによって、生徒が自発的に感じたことを書き込んだり、先生が重要と教えた箇所に線を書き込むといった紙の時代と同じような使い方もできるため、デジタルに踏み込みきれない学校への足がかりとしても、細かいところに手が届く仕様で作りこんでいる。

フラッシュカードやeラーニングのメニューといった補助教材の用意もあり、これ1つで学校教育のすべてをカバーできるように作りこみを図っている。

フラッシュカード機能

先生がハイパーリンクを埋め込むこともできる

アクティブラーニングのコンテンツも用意し、情報の非対称性がある中で質疑応答を行い、自働的な学習を行える

eラーニングコンテンツ

Classiと競合

Z会の営業部 新教育事業開発PJ 特任職 中村 恒太氏によると、このソリューション開発にあたって、同じく通信×文教としてソフトバンクとベネッセがタッグを組む「Classi」を「意識していないわけではない」と対抗意識を口にする。

ClassiもStudyLinkZも学習支援サービスを謳っており、教科書コンテンツを用意しつつ、定期テスト管理などの校務支援、コミュニケーションプラットフォームとの併用を含め、ポジションは似通っている。おまけにKDDIとソフトバンクという通信大手、ベネッセとZ会という通信教育大手の競合性も同様で、拡販体制も共同歩調を取っていくなど、真正面からぶつかる下地が整いつつある。

Classiは昨年よりサービスの正式展開を開始しており、2015年7月にはアダプティブラーニングシステムを世界中で展開している米Knewtonの日本展開におけるパートナーシップに合意。ICT化は個別学習が進み、目的、習熟度に応じた個々の学習状況に合わせた環境の提供が可能となるため、ソリューション提供で先行するClassiに追いつくには一定の労力を要するだろう。ただ、StudyLinkZもKnewtonとパートナーシップを結んでいるほか、KDDI研究所の理解度推定技術を活用した、純国産のアダプティブラーニングにおける新たな機能開発も行っており、国産、グローバルスタンダードの両輪で対抗していく。

それに加えて、コスト面でもStudyLinkZは攻勢を強めており、Classiが生徒1人あたり数百円の月額課金制であるのに対し、StudyLinkZはアカウント発行や校務支援サービスの利用料を無料とした。コンテンツやeラーニングシステムの利用料については、それぞれ課金される形になるが、ICTシステムとしての魅力や、初期投資コストの抑制は大きなポイントだろう。

テスト管理画面

他サービスのテスト成績はCSVで取り込める

対応表

生徒の成績管理画面

PCでテストエディターにより、先生が生徒へ簡単に簡易テスト問題を送れる

StudyLinkZは初期コストを抑えられる

KDDIはハード面で導入支援

KDDI ソリューション推進本部 ソリューション3部 1グループで課長補佐の野本 竜哉氏

学校におけるICT化は、タブレット端末を導入すればそれで終わり、というよりも、そもそもタブレット端末を導入するだけでは使いものにならないケースが多い。説明会でKDDI ソリューション推進本部 ソリューション3部 1グループで課長補佐の野本 竜哉氏は、学校における環境整備について「トータルでネットワークなどの環境整備が必要」と指摘する。

ICT化を検討するにあたって最初に検討が進むのが「構内の無線LAN整備」。以前より教育関係者や文教製品を提供するベンダーに取材すると、ICTの利活用が進んでいるのは高偏差値の先進的な私立高などが多く、多くの公立校、私立高ではWi-Fi環境が整備されていない。

そこで野本氏は「セルラータブレットの活用を検討すべき」と野本氏は利用を勧める。セルラータブレットを利用するのであれば、構内のWi-Fi環境の整備は限定的なもので済むし、課外授業などでもタブレットをネットワークに繋いで利用できる。また、Wi-Fi専用タブレットではGPSが搭載されていないため、紛失した際の発見が難しくなるという端末依存の問題も出てくる。紛失時の対応は、冒頭でも触れた「レンタル安心オプション」が文教向けに無償提供されるため、突発的なコストを抑えられるメリットもある。

こうした整備を進めても、なお教育現場がICT化を拒む理由として「セキュリティ」が挙げられる。これについては、セルラータブレットについては、モバイル網からインターネットを介すことなく、学校・教育委員会ネットワークに接続するほか、学外LANであっても、タブレット端末をVPN接続することで、リモートアクセスでセキュアに接続できるようにする。この仕組みは、青少年保護の観点で行われる「Webフィルタリング」にも応用できるため、端末個別にフィルタリングソフト入れることなく、ネットワークのフィルタ設定だけで有害サイトブロックが可能となる。これは学校だけでなく、保護者にとっても嬉しい措置といえるだろう。

一見するとあまりシナジー効果が見えない通信事業者と文教コンテンツベンダーの組み合わせだが、ソフトとハード、両面をカバーできる組み合わせだからこそ、出来ることが存在する。通信環境の整備から教育システムまで、総合的な環境構築が、次世代の人材の成長の鍵になるのではないだろうか。