広島大学、情報通信研究機構(NICT)、パナソニックは2月1日、シリコンCMOS集積回路により最大毎秒100ギガビットを超える伝送速度でデジタル情報の無線伝送を可能とする、テラヘルツ波(300GHz帯)を用いた無線送信技術を開発したと発表した。

同成果は、1月31日~2月4日にサンフランシスコで開催されている国際固体素子回路会議「ISSCC (International Solid-State Circuit Conference) 2016」にて発表およびデモンストレーション展示される。

テラヘルツ波帯は、一般にはまだ利用されていない新たな周波数資源だが、これを用いた無線システムは、広い周波数帯域を利用可能で超高速通信に優れているという特長がある。テラヘルツ帯を用いた無線通信技術が広く普及するために、デジタル信号処理回路との組み合わせや高速化に必須となる多値変調回路との集積化が容易なシリコンCMOS集積回路によりテラヘルツ帯信号の無線伝送を可能とする技術が望まれていた。

テラヘルツ波の周波数帯

しかし、多値変調を用いる通信システムでは、局部発振信号の周波数帯を搬送波の周波数の近くに設定する必要があり、最大発振周波数が300GHzに満たないシリコントランジスタを用いたシリコンCMOS集積回路でこの方式をとる場合、十分な局部発振信号が得られず、300GHz帯の無線通信システムを構成することは困難だった。

今回、3次非線形回路を用いる周波数変換技術により、局部発振信号の周波数帯を搬送波(300GHz帯)の1/3の周波数(100GHz帯)に下げることが可能となった。同技術を用いることで、シリコンCMOS集積回路により、変調信号を歪ませることなく周波数変換を行うテラヘルツ波帯周波数変換回路を実現した。

また、3次非線形回路を並列接続し電力を結合する技術を開発することで、テラヘルツ波帯信号の出力を向上。並列化回路の配置設計が効率的に行え、電力結合が効果的に行えることを考慮し、32並列とした。

さらに従来、互いに位相の反転した信号対である差動信号を用いる回路は、受動素子を組み合わせた差動信号を生成する回路とトランジスタによる増幅回路をそれぞれ設計し接続する構成をとっていたが、今回、トランジスタによる回路に増幅機能と差動信号を生成する機能を組み込むことで、回路の小型化を実現した。

テラヘルツ帯無線通信システムの実用化には、このほかに300GHz帯受信回路、高速通信に対応したデジタル信号処理による変復調回路が必要となる。同研究グループは今後、これら無線通信システムに必要な回路の基盤技術を開発し、シリコンCMOS集積回路による無線通信システムの実用化を目指すとしている。