再使用ロケットで本当に宇宙は身近になるのか

ニュー・シェパードやファルコン9の成功で、ロケットが宇宙に行った後、地球に帰って来られるということは証明された。しかしまだ、本当にロケットを再使用することで打ち上げコストを安くできるのかという課題が残っている。

スペースXのマスク氏によれば、ファルコン9の再使用化が軌道に乗れば、打ち上げコストは今の100分の1にまで下がるという。現在の使い捨て型のファルコン9は1機あたり6120万ドル(現在のレートで約72億円)であるため、これが約60万ドル(約7100万円)ほどになるということになる。実現すれば、宇宙ははるかに身近となり、これまで宇宙とは関係のなかった企業も宇宙利用を始め、さらに宇宙旅行や、宇宙ステーションや他の星への移住なども実現するかもしれない。実際マスク氏やスペースXは、有人火星探査や、火星への移住を最大の目的として掲げており、彼らにとって再使用ロケットは目的ではなく、その目標に向けた手段に過ぎない。

マスク氏が2013年に語ったところによれば、ロケットのコストのうち、推進剤の費用が占める割合はわずか0.2%、また材料費も多く見積もっても2.0%ほどしかないという。つまりロケットのコストのほとんどは、ロケットを建造するための行為――材料を切り出したり、曲げたり、溶接したり、部品を組み立てたりなど――から発生しているということになる。これを無くすことができれば、ロケットのコストはグッと下げられるということになる。

もちろん2回目以降の打ち上げでは、ロケットの建造費の代わりに整備費が新たに掛かってくることになるが、それは建造費を上回るほどのものにはならないという。

マスク氏はその例として旅客機を挙げているが、同様の理屈で再使用化に挑み、そして敗れた宇宙機がすでに存在する。スペース・シャトルである。シャトルも飛行機のように運用できるロケットを目指して開発されたが、実際は再使用するために必要なコストが膨れ上がり、当初の目標を達成することはできなかった。

ただ、シャトルとファルコン9には大きな違いがいくつもある。たとえば、シャトルは地球周回軌道からオービターが帰ってくるが、ファルコン9は高度80~100kmから第1段機体が帰ってくるだけなので、減速などの制御に必要な推進剤の量や、大気との抵抗で受ける加熱はずっと小さい。

またスペースシャトルの固体ロケット・ブースターは、大西洋に着水させて船で回収し、洗浄して推進剤を詰めた上で再度打ち上げられていたが、ファルコン9の第1段機体は陸上の発射台の近く、もしくは整備や補給施設、発射台をも兼ねた海上のプラットフォームに降ろすため、輸送や整備はずっと簡単になる。

スペース・シャトルはエンジンからコンピューター、人工衛星や実験室を積むコンテナ部分、宇宙飛行士が乗る居住区画まで、すべてを地球周回軌道から持ち帰り、再使用するという複雑な乗り物だった。 (C) NASA

一方ファルコン9は、ロケットの第1段機体のみを、軌道速度よりはるかに小さな速度から回収して再使用するため、シャトルよりも再使用に必要な装置などは簡素に済む。 (C) SpaceX

マスク氏は「スペース・シャトルのコンセプトは間違っていなかったが、要求の変化によって機体が複雑になり、効率的な再使用ができなかった。私たちなら、迅速に再打ち上げができる、完全再使用ロケットは開発できると考えている」と語る。

だが、本当にマスク氏の目論み通り事が進むかは、専門家の間でもまだ意見は分かれている。たとえば打ち上げコストを100分の1にするのであれば、同じ機体を少なくとも100回以上は再使用しなければならないことになるが、それだけの回数の飛行に耐えられるロケットを造るのは難しいだろう。もっとも、たとえ50分の1でも、10分の1でも、現在のロケットのコストから考えると、破格の安さになる。

昨年末のファルコン9の着陸成功は、ひとまず「衛星打ち上げロケットの第1段を着陸させることは可能」であることを証明した。また、その後マスク氏は「着陸後の機体を検査したところ損傷は見つからず、エンジンの再始動も可能な状態である」と明らかにしている(これは「再打ち上げが可能な状態」と言い換えても良いだろう)。

次に彼らは、実際に一度打ち上げに使ったロケットが再び打ち上げに使えること、そして、それによりコストが安くなることを証明しなければならない。

マスク氏の計画は正しいのか間違っているのか。あるいは正しいものの、ヴァルカンやアデリンのようなエンジンのみの再使用のほうがより効果的なのか。それとも、現代の技術でもまだ再使用ロケットは成立し得ないのか。これら諸々の結論は、今後数年のうちに出ることになるだろう。そして結論が見えてきたころ、日本や世界のロケットはどういう方向に向かうのか。私たちは今、その分かれ道に立っている。

地上に帰還した「ファルコン9」ロケットの第1段機体 (C) SpaceX

帰還後、ケイプ・カナヴェラル空軍ステーションの格納庫へ回収された「ファルコン9」ロケットの第1段機体。近い将来、こうした光景が日常のものになるかもしれない。 (C) SpaceX

【参考】

・Background on Tonight's Launch | SpaceX
 http://www.spacex.com/news/2015/12/21/background-tonights-launch
・Falcon 9 | SpaceX
 http://www.spacex.com/falcon9
・Spaceflight Now | Falcon Launch Report | SpaceX achieves controlled landing of Falcon 9 first stage
 http://spaceflightnow.com/falcon9/009/140419reusability/#.VLSQznv2TdE
・Liveblogging Tech Renaissance Man Elon Musk at D11 - Liz Gannes - D11 - AllThingsD
 http://allthingsd.com/20130529/coming-up-tech-renaissance-man-elon-musk-at-d11/
・SpaceX Grasshopper Makes Record Hop : Discovery News
 http://news.discovery.com/space/private-spaceflight/spacex-grasshopper-prototype-sets-new-record-130311.htm