2015年は日本にとって「Fintech元年」と言われるほど、盛り上がりを見せた年となった。とは言え、まだまだ大きな成果が出ているとは言えないFintech。今後、どのように成長していくのだろうか?

IDC Japanは1月7日に、「2016年 国内金融IT市場予測とフィンテックの展望」について説明を行った。金融業界やFintechスタートアップ企業、ITベンダーの最新動向について、同社で金融機関を中心にIT支出の調査を行っている市村仁氏から語られた。

国内金融IT市場の概要

2016年の国内金融IT市場(銀行、保険、証券、その他金融の国内におけるIT支出、ATM、営業店端末のIT支出分も含む)は、前年の大型案件の反動もあり、市場規模は2兆407億円で、前年比成長率は0.6%と予測された。2016年の予測は低い数値となっているが、2019年までの期間でみると、堅調に拡大していくという。また業態別では、メガバンク(前年比成長率:3.0%)、カード(同:2.3%)、生命保険(同:2.5%)、大手証券会社(同:2.1%)が比較的高い成長率で拡大すると同社はみている。市場規模の金額は、情報システム子会社向けの構築や運用サービス費用の支出、海外拠点での支出は含まれていない金額となる。

メガバンク・保険会社・証券会社のいずれの業界においても、今後支出が見込まれるシステムの分野として、「チャネル系システム」と「顧客管理系システム」が挙げられた。同社による両システムの定義は、「チャネル系システム」は営業店システムやインターネット/モバイルバンキング、コールセンター関連システム。「顧客管理系システム」は顧客管理システムや営業支援システムとなっている。チャネル系システムでは、特にインターネット/モバイルバンキング分野の成長が見込まれている。

国内金融IT市場 システム別IT支出、2014年~2019年の年間平均成長率(メガバンク)

一方、地方銀行などはIT投資に対して二極化しており、全体としては低い成長率にとどまると同社はみている。地方銀行や信用金庫、信用組合など地域金融機関における、2014年~2019年のIT支出のCAGRは0.5%とされた。チャネル系システムはマイナス成長が見込まれているが、「その中でもインターネット/モバイルバンキングの分野では、2~3%の伸びがあるだろう」と市村氏は言う。

国内金融機関の取り組み

市村氏は、国内金融機関の状況について次のように述べた。

IDC Japan ITスペンディンググループ 市村仁氏

「これまでは地域の銀行に預けるのが当然だったのが、ネット銀行などが登場し、個人のニーズが多様化されてきた。また、セブン&アイやイオンといった多業態から金融業界への参入があり、金融機関ではリテール向け商品やチャネル体系の見直しが必要となっている。例えば地方銀行だと、これまでは店舗に来てもらうことが最優先だったが、インターネットバンキングで若い人を取り込まなければいけない。ネット証券だと、デイトレーダーを囲い込んでいたら稼げたのが、成長が鈍くなっているため、新しい顧客層を取り込まなければいけない。一方企業向けのビジネスでは、これまでのような金利収入ではなく、サービス収入で稼いでいかなければいけなくなっている。それには、営業の提案能力を向上させていく必要があり、これは会社として強化しなければいけない」(市村氏)

各業態の金融機関では、既存顧客の取引深耕に加えて、新規顧客の開拓が課題となっており、店舗・渉外担当者・インターネット・コールセンターなどの各チャネルを有機的に連携する「オムニチャネル化」が加速しているという。しかし実際には、この「オムニチャネル化」において求められる各チャネルのデータベースの統合が遅れる金融機関が多いといった状況だ。

また、大手金融機関を中心に、ビッグデータ技術を含めた顧客属性・取引データの分析強化に向けての検討が開始されているそうだが、まだまだ既存の顧客管理システムの改修やデータ整備を行っている企業が多く、ビッグデータの分析を行う「手前」の段階であるという。

「費用対効果の観点から、経営層がIT支出に懸念を示す金融機関もある。とある会社では、以前CRMのプロジェクトが大失敗し、『データウェアハウス』『顧客管理システム』『ビッグデータ』というキーワードを使って申請を上げると、拒否反応を示されてしまうといったケースもある」(市村氏)

Fintechスタートアップ企業の状況

現在、メガバンクやカード会社を中心にしてFintechスタートアップ企業との連携、支援が積極的に行われている。

金融機関がFintechスタートアップ企業と提携する目的としては、「自社のビジネスを脅かす存在となりうる企業と連携することで将来的な競合を回避するため」といった理由から、「自社単独で革新的なサービス開発を行うことは、リソース面、企業文化の面で困難なため」などが挙げられている。

「ベンダー頼りにせず、自分たちでITの知見を取り戻すため、といった金融機関もある」(市村氏)

一方大手のITベンダーやSIerでも、Fintechスタートアップ企業に、連携、支援、または金融機関とのビジネスマッチングを行う動きが増えている。富士通は、2015年7月に「Financial Innovation For Japan」を設立。同組織には、金融機関やFintechスタートアップ企業、SIerが100社以上参加している状況だ。日本IBMは、2015年10月から「IBM Fintechプログラム」を開始している。

市村氏は「しかし、現時点では検討・実証段階の金融機関が大半。また、システム面ではAPI連携にとどまっているケースが多いことから、IT支出全体への影響度は現状は小さい」と話した。具体的な支出金額については、現在調査中だという。

しかし、Fintechスタートアップ企業との連携の本格化によって、今後さらに活発化していくと予測している。そして、この「連携の本格化」には、多くの課題があるという。

「課題は大きく3つある。1つめは、法制度の制約。現在、持株会社の規制緩和やオープンAPIの検討などが始まっているが、ビットコイン関連の規制や、業務委託時の高い契約基準をFintechスタートアップ企業がクリアできるのかといった課題がある。2つめは、金融機関とスタートアップ企業のセキュリティの考え方やスピード感の違いがあること。どこで稼いでいこうといったビジネスモデルも異なっている。3つめは、金融機関においてFintech活用の展望が不明確なこと。連携して何がしたいのかが決まっていない企業は多い」(市村氏)

このような課題に対してITベンダーは、金融機関とFintechスタートアップ企業の企業文化の差異をカバーするなど、橋渡し役になるような、中長期的な視点での支援が求められている。

既存の金融機関の業務とFintechスタートアップ企業の提供サービス範囲との比較