広島大学(広島大)は12月9日、胃がん、前立腺がんの発生・増殖に関わる転写超保存領域(T-UCR)の同定と発現制御メカニズムを発見したと発表した。

同成果は、同大学大学院 医歯薬保健学研究院 基礎生命科学部門 安井弥 教授、医歯薬学総合研究科 博士課程 後藤景介氏らの研究グループによるもので、12月7日付けの英科学誌「Oncogene」オンライン版に掲載された。

T-UCRは、ヒト、マウス、ラットなど生物種をこえて100%同一の配列が保存されているという特徴を持つ非翻訳RNAで、いくつかのT-UCRはがんにおいて発現が変化していることが近年の研究により報告されている。

同研究グループは、定量的RT-PCR法を用いて胃がん、前立腺がんにおいて発現異常を示すT-UCRを同定。がんにおいて特徴的に発現が低下していたUc.158+Aと発現が上昇していたUc.416+Aという2つのT-UCRに着目し、発現異常をもたらすメカニズムとがんにおける役割について解析した。この結果、Uc.158+AはがんにおいてDNAメチル化の影響を受け、発現が抑制されることが明らかになった。

Uc.158+AはがんにおいてDNAメチル化の影響を受け発現が抑制される

一方、がんにおいて特徴的に発現が上昇しているT-UCRは、新たながん診断のマーカーになる可能性がある。そこで、Uc.416+Aのオンラインデータベースを用いT-UCRとマイクロRNAとの関連についてシミュレーションを行い、Uc.416+AとmiR-153というマイクロRNAに関連があると仮定。胃がん細胞株を用いた実験で、miR-153の発現を調節するとUc.416+Aの発現が変化することを確認した。

さらに、Uc.416+Aの発現を抑制させることでがん細胞の増殖が抑制され、Uc.416+Aががん促進的機能をもつことが明らかになり、その増殖制御には、インスリン様成長因子結合タンパクであるIGFBP6が関与していることを突き止めた。

今回の成果により、今後Uc.416+Aを標的とすることでがんの増殖を抑制させる治療への応用が期待される。また、がんを発見し最適な治療方針を選択するうえで、T-UCRが有用な指標となる可能性が示された。