京都の機械メーカーである村田機械は、今年で創業80周年を迎える。創業当初は繊維機械の製造・販売をメインに行っていた同社だが、1961年に工作機械、1962年に物流機器分野へ進出して以来、FAシステムやクリーン搬送システム、情報機器など、ものづくりの領域で事業を拡大してきた。

同社は、犬山事業所内にある「L&A(ロジスティクス&オートメーション)ソリューションセンター」を昨年リニューアルした。同センターでは、各種無人搬送システムを利用した生産・流通工程内の自動化技術を見学することができる。今回特別に同センターの取材許可をいただくことができたので、本稿ではその内部の様子をお伝えしたい。

村田機械犬山事業所

「L&Aソリューションセンター」入り口

高速で荷物を仕分けるクロスベルトソーター

同センターに入ってまず筆者の目を惹いたのは、高速で動くクロスベルトソーターだ。ベルトコンベヤを搭載した台車がループ上に連結されて周回し、ベルトの底面がスライドすることでさまざまな大きさの荷物がすばやく仕分けされていく。この処理能力は「自動インダクション」という機能が支えている。クロスベルトソーターに荷物を投入する際に、センサで荷物の大きさや位置を認識し、コンベヤの速度を変えて投入のタイミングを調節しているのだ。

クロスベルトソーター。ベルトの底面が左右にスライドすることで荷物が仕分けられる

「自動インダクション」機能によりコンベヤの速度を自在に変えることで、荷物同士がぶつからないよう投入することができる

荷物の大きさはレーザーセンサで認識。カメラでバーコードを読み取り、所定の場所に搬送・仕分けする

小物や割れものなどを仕分けする際には手動で投入することも可能なため、家具やインテリア用品の販売チェーン店、Eコマース、郵便、アパレル通販、宅配などさまざまな業界へ導入されているという。

自在に移動できる無人搬送車「Premex-SLX」

従来の無人搬送車(AGV)では、磁気やレーザーで走行を制御していたというが、同社の「Premex-SLX」には環境地図作成機能と自己位置認識機能が搭載されており、目的地までの最適ルートを自動で決定し、障害物を回避しながら自立的に走行する。3つの車輪すべてが駆動するため進行しながら横行でき、省スペースでかつ柔軟な移動が可能となっている。荷物は、最大で4.3mの高さまで持ち上げられる。

3輪駆動で狭い空間を柔軟に走行する

1tの荷物を4.3mの高さまで持ち上げることが可能

また、同搬送車を充電するのも「無人」だ。バッテリーの残量が減ると、自動的に充電装置の場所まで移動し、自動で充電する仕組みとなっている。

「Premex-SLX」は、リチウムイオン電池により動作する。バッテリー残量が足りなくなると自動でここまで移動し充電

天井走行搬送システム「SKY RAV」

同センターの上を見上げると、天井空間を活用した走行搬送システム「SKY RAV」が設置されていた。同システムいちばんの特徴は「走行同時昇降」と言ってよいだろう。ゲームセンターにあるクレーンゲーム機を想像していただくとわかりやすいが、クレーンゲームでは、縦・横の位置を決めた後に、クレーンが上下に移動する。しかし同システムでは、横方向に走行すると同時に上下に移動することができるため、横方向の位置を決めてから昇降する形式より、ロスタイムが大幅に削減される。これは、停止した際の昇降台の揺れを制御できる独自技術が同システムに盛り込まれているために実現できている。

天井走行搬送システム「SKY RAV」。揺れを制御できる独自技術により、走行と同時に昇降することができる

また同システムの台車にはカメラが搭載されており、無線LAN通信で遠隔地から現場の状況をリアルタイムに把握することができる。異常を検知した際には、前後10秒を映像に保存しておくことも可能だという。

台車に搭載されたカメラにより、遠隔地から現場状況をリアルタイムに把握することができる。村田機械の子会社であるサイレックス・テクノロジーの無線アクセスポイント「SX-AP-4800AN」を利用

高速立体仕分けシステム「Uni-SHUTTLE HP」

最後に見せていただいたのは、1システムで保管機能と搬送機能、仕分け機能を有する高速立体仕分けシステム「Uni-SHUTTLE HP」だ。配送先単位や客先単位といったグループで出庫したり、条件順に整列して出庫したりすることができるため、人力で行われることが多いという出庫後の積み込みや仕分け作業の工程を大幅に削減することが可能となっている。

高速立体仕分けシステム「Uni-SHUTTLE HP」。それぞれの段にシャトルが走行しており、条件にしたがって荷物を仕分ける

シャトルが荷物を出庫する様子。バーコードで位置を認識している

医療や食品業界に強み

ここまで読んでいただいてわかるように、同社のシステムを利用すれば人をなるべく介さないで対象物を搬送・管理することができるため、特に医薬や食品業界に強みを持っているという。多様化する消費者のニーズにより、物流センターの担う役割は大きくなってきており、また製造の現場においてもコスト競争や調達部品のグローバル化など、激動の時代がやってきている。同社は、ハードとソフト、およびエンジニアリングの力を結集させ、あらゆるビジネスに対してロジスティクス/FAソリューションを提供していきたいとしている。