三菱電機は8月25日、世界で初めて(※)左右独立して駆動するファンを搭載したルームエアコン「霧ヶ峰 FZシリーズ」を発表した。同日開催された新製品発表会では、新機能の説明のほか、実際にFZシリーズを使用したデモンストレーションや、体感イベントなどが行われた。

※三菱電機調べ。

新製品の霧ヶ峰 FZ シリーズ。発表会では家庭の室内を模したデモルームで、さまざまなデモンストレーションも行われた

現在のエアコンの問題点とは

FZシリーズは「今までのエアコンの問題点を解決している」と語る、三菱電機 静岡製作所長の松本匡氏

発表会の冒頭には、三菱電機 静岡製作所長の松本匡氏が登壇し、現在のエアコンの問題点について語った。松本氏は現在のエアコンについて、2つ「乗り越えなければならない壁がある」とコメント。1つの壁は「暑がりな人と寒がりな人が一つの部屋で快適に共存できる空間作り」。一般的に快適といわれる温度でも、男女差や年齢差、そして個人によっては「暑すぎる」「寒すぎる」と感じることがある。このため、部屋にいる人みんなが快適に感じる空間を作るには、個人に合わせた温度空間が必要になる。

もう1つの壁は、省エネ性能の問題。1995年から、エアコンメーカーは各社さまざまな工夫を凝らし、省エネ化を進めてきた。しかし、一定の省エネ化が進んで以降、消費電力量は削減しにくくなってきている。松本氏は、これら2つの壁を打ち砕くには、今までにない革新的な技術改革が必要だと感じ、今回のFZシリーズの開発に至ったと語る。

【左】例えば、寒がりの女性と暑がりの男性が同じ部屋にいると、空調の温度を巡ってリモコンの取り合いになることも。【右】1995年からのエアコン省エネ性能の推移グラフ。近年は、消費電力量にあまり変化が見られない

左右独立駆動するファンで個人に合わせた温度空間

FZシリーズの技術説明を行う三菱電機 静岡製作所 ルームエアコン製造部 技術第一課長の吉川浩司氏

次に、三菱電機 静岡製作所 ルームエアコン製造部 技術第一課長の吉川浩司氏が登壇し、FZシリーズの新機能について解説した。

FZシリーズでは、まず「体感温度」に注目。三菱電機のルームエアコンは、これまで赤外線センサー「ムーブアイ極」によって、人の表面温度を0.1℃単位でセンシングしていた。

しかし、表面温度を測定するだけでは、同じ温度でも暑い・寒いと感じる個人差には対応できなかった。人間は身体の中心部を守るため、「寒い」と感じると血液を身体の中心に集め、末端部分が冷たくなる傾向がある。そこで、FZシリーズでは手先や足先の温度に注目。手足の先の温度をセンシングすることで、個人の温度の感じ方を判断できるようになった。また、手足という細かな部位をセンシングするため、ムーブアイ極の水平方向の解像度を、従来の4倍まで高めている。

室内の温度をセンシングする「ムーブアイ極」。ぐるりと回転することで、部屋中を細かくモニタリング

【左】会場内では、ムーブアイ極がどのように部屋をみているかを確認できるデモも行っていた。発熱体の「形」で人の手や足先の位置を認識できる。【右】台の上に手をのせると、ムーブアイ極が手を感知し、すかさず冷風を送る

独立駆動の2つのファンで2種類の風量コントロール

FZシリーズ最大の特徴ともいえるのが、温度の感じ方が異なる人が同一空間に2人いる場合、それぞれにふさわしく空調をコントロールできる点。従来のエアコンは、風の「向き」をルーバーで制御するだけだったが、FZシリーズは左右で独立駆動する2つのファン「パーソナルツインフロー」を採用することで、1台のエアコンから異なる風量の風を送れる。

吉川氏によると、現在発売されているエアコンは、一般的に筒状の「ラインフローファン」を使用している。ラインフローファンとは、回転によって幅の広い気流を生み出す筒状のファンだ。ただし、ラインフローファンは横一列に均一な風しか送風できないうえ、風圧も低く、送風方式としては効率が良いものではない。

そこで、FZシリーズでは2つのプロペラファンを採用し、室内機上部に並べて配置。左右のファンをそれぞれ回転制御することで「1台のエアコンから、風量の異なる2種類の風」を送ることに成功した。この「パーソナルツインフロー」機能と、「ムーブアイ極」のセンシング機能を利用することで、FZシリーズは冷房時、「暑い人には強い風」「寒い人には弱い風」を送れるようになった。

【左】従来は長い筒状のラインフローファン(写真下)を使用していたが、新製品はプロペラファン(写真上)を2つ採用。【右】左右のファンを独立してコントロールできる。写真のデモ機では、左右のファンの回転数を計測中。右は毎分1,117回転、左は毎分677回転

【左】発表会では、快適な温度でくつろいでいた妻と、冷えた身体で帰宅した夫というシチュエーションでシミュレーションも行われた。会場上部には床面の温度分布とファンの回転数をリアルタイムで表示する大型モニターを設置。初期段階では女性の位置だけが赤く温まっているのがわかる。【中】男性が入場(帰宅)して十数秒後、男性が冷えていると判断したエアコンが、男性のまわりだけを急激に温める。男性のまわりの床の温度が上がっているのがわかる。このとき、男性周辺の温度と室内の温度差は約3℃ほどあるそうだ。【右】身体の冷えた男性がソファーに移動し、女性はダイニング側へ動いたところ。あいかわらず、床温度は男性のまわりだけ高い。エアコンは冷えている男性を追尾し、男性のまわりだけを温めている

省エネ性能が飛躍的にアップ

プロペラファンを採用することで、近年は停滞気味だった「省エネ性能」も向上した。もともとプロペラファンは、従来のラインフローファンよりも効率よく風を起こせる。さらに、プロペラファンを回転させるモーターを高効率化することで、ラインフローファンと比較すると、モーターの消費電力は同一風量時で約31%削減できたという(※)。

※風量18m3/min時、従来ラインフローファン搭載のMSZ-ZW565S(47.9W)とMSZ-FZ5616S(32.8W)の消費電力を比較。

エアコンは電気で冷却・加熱したスダレ状の熱交換器に、風を通すことで冷風や温風を生み出している。従来のラインフローファンを使用した場合、ファンのまわりを「コ」の字型で囲むように熱交換器を配置する必要があった。しかし、プロペラファンを採用したFZシリーズでは、ファン下部に熱交換器を「W」字状で配置。熱交換器の搭載量を増やすことができ、その結果、効率的に送風温度を制御して省エネ性能がさらにアップした。

【左】現在主流となっているラインフローファンを採用すると、熱交換器を「コ」の字型に配置しなくてはならない。【右】プロペラファンを採用したため、FZシリーズでは屏風のようにW型に熱交換器を配置することが可能。これにより、従来よりも熱交換器の搭載量を増やすことができた

会場では、実際のプロペラファンやW型熱交換器の展示も行われていた

デザインにこだわったFLシリーズも発表

新製品発表会ではFZシリーズのほか、「霧ヶ峰 FLシリーズ」のコンセプトモデルも発表された。「エアコンひとつでリビングの空気を変える」がコンセプトで、デザイン性の高さが特徴だ。

デザイン性にこだわった「霧ヶ峰 FLシリーズ」も発表された。カラーはボルドーレッドとパウダースノウの2色