VAIOは19日、6月に代表取締役に就任した大田義実氏の就任記者会見を、東京・西新橋に位置する同社東京オフィスで開催した。新社長を迎えたVAIOの方向性、大田氏の狙いについては弊誌インタビュー記事に詳しいため、ここでは会見の概要をレポートする。

就任記者会見での大田義実社長

大田義実氏は、VAIOの2015年第1四半期(2015年6~9月)の頭に、VAIAO代表取締役に就任。1976年ニチメンに入社以降、商社を軸にキャリアを重ねた。ニチメンと日商岩井の統合会社である双日や、日商岩井の物流事業を独立させた双日ロジスティクスなどを経て、2010年にサンテレホン入社。2013年にサンテレホンを退社し、2014年にミヤコ化学代表取締役社長に就任。2015年5月に同社を退職、2015年6月VAIOの代表取締役社長に就任する。

良いものを伸ばし、悪いものを直す

大田氏は、社長業を重ねてきた経験を踏まえ、会社経営のモットーを「良いものを伸ばし、悪いものを直す」とシンプルに定義する。この方針に沿って、今まで商社以外の会社でも再建を進めてきたとし、VAIO社長就任の打診があった際には「非常にやりがいを感じた」という。

大田氏がみるVAIOの長所は「ソニー時代から培った高い技術力」と「経験豊かな技術者」、そして「ブランド力」の3つだ。ゼロから創業した関取高行前社長の時代から1年が過ぎ、2年目を迎える2015年以降は、会社の中身を強化することに注力する。具体的には「十分な収益を継続的に上げていく」こと。会社の収益性の改善に力を注ぐことになる。

VAIOの強みは設計・製造技術、経験豊かな人材、ブランド力

2年目のVAIOは「自立」と「発展」

「ソニー時代の反省を含め、悪いところは直し、良いところは伸ばす。スピード感を持って実行していきたい」と語る大田氏。大田氏は、会社の収益性を改善するために、大田氏は「自立」と「発展」という2つの目標を掲げる。

これからのVAIOが目指すこと

自立とは、VAIO一社で、企画・設計・製造、サービス、営業、販売まで、一気通貫すること。今までソニー内のいち事業部門であったVAIOには、営業機能が備わっていなかった。営業はソニーマーケティングが担当していたほか、量販店ルートではVAIOが営業していたものの、営業部ではなく機種ごとの担当者が対応するという状況だった。

大田社長はまず、VIAO内に自前の営業部を新設。営業部の中に、技術関連の説明を担当する技術営業部も設置し、長野本社で候補を募集した。アポイントがあった場合、長野から営業担当者が現場へ行く。これには、商品を売っていく以上に、「自分が作ったものがどうして売れないのか」を実感し、経験を次の商品企画に活かすという狙いがある。

自前の営業部

営業部には技術者が集まった技術営業部隊を設ける

また、収益責任を持つ体制への移行も目指す。大田氏は「一人一人のコミット意識が低い」と考えており、従来は設計・製造・品質保証(品証)のみの商品ユニット制だったところ、設計・製造・品証、営業部、技術営業部隊を備えたビジネスユニット制としたことで、売り上げ責任を全体に行き渡らせるようにした。

営業部はBtoB分野を担当し、国内販路を拡大。BtoCではソニーマーケティングが営業を担当する。一方で、加賀ハイテックをパートナーに据えた量販展開は、「会社の規模を考慮して」現在の196店舗のままとする。

国内販路もBtoBを中心に強化していく

PC事業と新規事業を1:1の割合に

目標のひとつ、発展については、新規事業の立ち上げと拡充を進める。具体的には海外への進出と、PC以外の新規事業の展開だ。大田氏は「突飛なことをやるわけではない。収益の2本目、3本目の柱を作るための新規事業」と説明する。

米国での展開

ブラジルでの展開

海外進出は、まず米国およびブラジルで展開。米国では「VAIO Z Canvas」を、ブラジルではVAIO商標をつけたPCの製造、販売を行う。ポイントとなるのは、米国ではトランスコスモスの米国法人をパートナーとし、マーケティングと販売機能を米国側で行なう以外の部分は、VAIO側が責任を持つ形となる点。販売開始は10月5日。販路は米国ECサイトのほか、米Microsoftの直販サイトmicrosoftstore.com、タッチポイントの場として「Microsoft Store」店頭販売も行う。

一方、ブラジルではPCの製造、販売、サービスまで全工程を、現地のPCメーカーPOSITIVO INFORMATICA S.A.に委託し、リスクを最小限に抑えることがポイント。発売日は具体的な取り扱い機種は未定だが、「現在販売しているVAIOのラインナップ内の機種を予定している」とのこと。

海外展開は、「自分で全てやることはない」といい、基本的に現地パートナーと組んで販路や製品を拡大していく。適切なパートナーが見つかり次第、アジアにも展開を広げる予定だ。

富士ソフトのコミュニケーション小型ロボット「Palmi」は安曇野工場で受託生産している

PC以外の新規事業では、ロボット事業のほか、IoT関連事業、ゲーム関連事業、ファクトリーオートメーション(FA)関連事業への参入を検討する。本社が所在する長野県安曇野工場は、ソニー時代にもロボット犬「AIBO」を製造していた実績を持つ。大田氏は「AIBO時代に培ったロボット設計技術が高く評価されている」として、ロボット受託事業へのオファーが多く存在することを明かした。すでに、富士ソフトのコミュニケーション小型ロボット「Palmi」は量産ラインの立ち上げも安曇野工場で行っているという。

2017年度には、PC事業と新規事業を1:1の割合とし、収益の柱に見込む。新規事業には携帯電話やタブレット製品も含まれ、製品化は検討しているという。

PCはハイエンドのラインを引き続き強化

VAIOのデバイス事業のポジション

主力であるPC事業については、「PCは生産性、創造性を高める最高の道具」という同社の基本方針を踏襲した上で、VAIOが得意とするハイエンドのラインを引き続き強化していく。台数ベースではなく、高機能・高付加価値に基づく利益ベースの方針で「VAIOの得意な分野で戦っていく。むやみに数量を追わず、丁寧に進めていきたい」と力強く展望が語られた。

会見は、東京・西新橋に位置するVAIO東京オフィスで開始された。会社設立から1年目で登場した「VAIO Z」「VAIO Z Canvas」「VAIO Fit 15E | mk2」「VAIO Pro 13 | mk2」、VAIO Zの製品コンセプト紹介文などが並べられた