40種類ものイラストを考え、完成させるには?

ギリギリを突き詰めようとすると、たのしい中にもさまざまな葛藤もあるようだ。8月初旬にJellyFish氏が講師を務めたアドビの初心者向けスタンプセミナーが実施されたが、その場では「40種類もつくるのに心が折れないか」という質問もされたことがあるという。

JellyFish氏は、「最初にあまり考えすぎないことですね」とひとこと。続けて、「『いいよ』『OK』『了解』『YES』『うなずく』などはたしかに"同じ用途"ではあるんですが、どれも使われる割合が高いので、定番のものは必ず入れるようにしています。40種類ぜんぶ違う用途にしなくちゃ!みたいなことはないと思うんです。微妙に違うニュアンスを日本人は使い分けるので、それはそれで便利に使ってもらえているんだと思います」と語った。

制作にIllustratorをつかうメリットとは

LINEクリエイターズスタンプには絵柄に対する規約こそあれ、制作ツールには一切縛りがない。以前クリエイティブchで連載した「ヒットメーカーに聞く"LINEスタンプのつくりかた"」でもクリエイターたちに使用ツールを聞いていったが、Illustratorをメインで使うという人はどちらかというと少なかった。

では、なぜIllustratorを使うのだろうか? JellyFish氏は、その理由として「効率」を挙げた。「制作時間と売り上げは比例しないというのがスタンプの実情」と指摘し、「慣れてしまえば、1つひとつ40個絵を描くよりも作業効率は高い」と語る。

同氏の人気キャラ「あざらし」の描画を実際に見せてもらった。「目鼻口はキャラクターの命。福笑いみたいなもので、試行錯誤もしやすいです」と語りながら、体の輪郭をペンツールで瞬く間に描いていく。かわいさを左右するボディのふっくら感など、細かな微調整もできるのが魅力のひとつだ

JellyFish氏は、作画には鉛筆ツールとペンツールを主に使用。同じキャラクターはパーツをコピー&ペーストして使っている、そのほか、反転して右手を左手にしたりと、工数の短縮もメリットという。LINEスタンプを審査に出す上で、「背景の透過」はプロアマ問わず見落としやすいポイントだが、そうした透過ミスやゴミの消し忘れなど、ケアレスミスを防げるという側面も評価していた。

また、LINEスタンプはフォーマットが定められており、すべての絵柄を規定の枠内に収める必要がある。Illustratorで描画した線はベクターデータのため、リサイズしたても画質が劣化しないのもポイントが高いという。ただ、これまではイラストをひとつずつ規定のサイズに調整する必要があり、その作業にとても手間がかかったという。最近、アドビがIllustrator用のLINEスタンプ作成フォーマットの無料配布を開始したことで、その工程が劇的に効率化されそうだと喜びの声をあげた。しかし、「嬉しいですが、もっと早く作ってほしかった!」と、これまでのコメント以上に力のこもった言葉も口をついて出てきていた。

さらに、Illustratorを使う大きなメリットとして、「グッズ等の色々な媒体へ容易に転用できる」ことが挙げられた。というのも、スタンプの規定サイズはグッズなどの印刷物の規定と比べると非常に低解像度のため、元データの解像度を超えた展開はしづらい。だが、Illustratorで描画したデータは拡大・縮小しても画質が劣化しないベクターデータのため、印刷のサイズを問わず転用が容易にできる。実際、JellyFish氏はGMOペパボのマーケットプレイス「SUZURI」などで、自身の人気スタンプキャラクターのさまざまなグッズ展開を行っている。

これから制作してみたいという人にアドバイスをと伺うと「リジェクトを恐れないこと!」そして「あまり1つひとつに時間をかけずにサクサクまずは作ってみること」と即答。150作品をリリースし、試行錯誤を繰り返してきた中で見えた答えが、そこにあるのかもしれない。

続いて、人気スタンプクリエイター・Miho Kurosu氏に、イラストのキャリアがない中でスタンプを作りはじめた経緯などを聞いていく。